胃袋をつかめ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

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胃袋をつかめ

2014-04-30 15:03:00

 こんにちは、ジョージ・クルーニー婚約のニュースに本気の落ち込みをみせている西山です。先日、私はツイッターでこんなことをつぶやきました。
 
『新生姜のご飯を炊いた。とても美味しくできたのでジョージ・クルーニーに食べさせたい。たぶん結婚できる。』
 
しかし、この数日後にジョージは私の作った新生姜のご飯を食べぬまま、弁護士のおばはん(私と同じ歳)と婚約したのであります。ああ、もう一足早く私が土鍋を抱えてアメリカに行っていれば!本当に無念でしかたありません。まあ、婚約者である弁護士のおばはん(しつこいようだが同じ歳)が料理をしているかは定かではありませんが、世間には「男の胃袋をつかむ」という恐ろしい言葉がありますね。本当にそんなことができるのか? 外科医でもないのに胃袋をつかんでいいのか? という疑問を胸に抱きつつ、やはり女子力と料理はきってもきれないものだと思うのです。東ちづるさんのように「お嫁さんにしたいタレントNo.1」になりたいなあと思っている私ですが、実は料理をほとんどしません。新生姜のご飯を炊いたのも「はー、クリアしたドラクエのレベル上げにも飽きたし、料理でもしてみようかなー」という日だっただけに過ぎません。一年を通して祝日の回数ほどの稀な日であります。それぐらい私にとって料理をするというのは一大事なのです。女子力が高い人は、きっとササッ、パパッと美味しいものを作るのでしょうね。私にはそれができない。「あるもので適当に作ったんだけど…どう?」というのができない。私の場合は「時間と労力をかけて必死に作った料理をあなたに出しました。スーパーへの道中、交通事故に遭うこともゼロではない。指を切る危険もあったし、顔に油が飛んで火傷をし、女優生命を絶たれる恐れもあった。それでも私は作りました。この命がけで作った料理…どう?」となってしまう。異常なまでに恩着せがましいのだ。しかもその料理にたいして「美味しい」と言われると最初のうちは嬉しいのだが、あまりにも繰り返し「美味しい!」と連発されると「バカにしてるのか!?」とキレてしまう。その理不尽を何度も経験している母は、台所に立つ私を見て「あら!何か作ってくれるの!?」と感嘆の声をあげつつもその膝はガクガクと震えている。そのくせ、料理を普段作らない者にありがちな『大物を作りたがる』という傾向にある。初めてスペインに行った時、パエリヤの美味しさに感動した私は、帰国後すぐに巨大なパエリヤパンとジプシー・キングスのCDを買いに行った。形から入るタイプなもので。ボラーレ!カンターレ!と唄い、「スペインではパエリヤじゃなくてパエージャって言うんだよ」とドヤ顔でどうでもいい薀蓄を語りながら作ったパエリヤはびちゃびちゃなのに米の芯が残っているという無残なものだった。しかもアンコウ、ムール貝、海老、パプリカと材料費が半端なくかかり、外で食べた方が安くて美味しいという残念すぎる結果。パエリヤパンはその後使われることなく、シンクの下で眠っております。
 
 もちろん36年間も生きていれば殿方に料理をふるまったこともあります。そんな時、私は鶴の恩返しばりに「料理ができるまで何があっても台所を覗かないでください…」となります。とにかくテンパっている自分を見られたくない。鬼の形相でレシピを読み「適量って何だよ!」「焦げ目ってどれくらいだよ!」と千手観音に見えるほど忙しなく手を動かす私。台所からはトントン、カチャカチャ、ジュージューと音が聞こえ、リビングにいる彼は何が出てくるんだろうと胸をわくわく。そのわりには食卓に乗ったのはハンバーグのみというびっくりドンキーもびっくりこの上ない。しかも「ぎゃ!ご飯炊くの忘れた!」と、もう救いようがない女です。バレンタインに無理してガトーショコラを作ったこともあるなあ。レシピ通りにやったはずがオーブンから出てきたガトーショコラは、まったく膨らんでおらず、表面が黒こげ。それでもせっかく作ったのだから渡しましたよ。渡す時に真っ黒をごまかすために部屋の灯りを消して誕生日でもないのに蝋燭を立てて、「ハッピー、バース…あ、バレンタイーン♪ えっへっへ」と謎の歌を口ずさみながら彼にプレゼント。無論、一口食べれば焦げなどすぐに気づきます。部屋の電気をつけてガトーショコラを見た彼は「なにこれ?巨大椎茸?」と眉間に皺をよせておりました。ああ、まったく胃袋をつかめていなかったなあ。
 
やはり女子力向上には料理が必要ですね。今まで祝日ほどの回数だった料理日を大安ぐらいにまでは増やしてみよう。料理は慣れと言いますからね。写真は以前、アラスカに行った時のある日のランチです。そこのロッジは自炊だったのですが、山奥にあるためスーパーでの食材購入は空港からロッジに向かう時のワンチャンスのみ。普段料理をしない女が1週間分の食材をアメリカのスーパーでまともに揃えられるはずもなく、滞在後半ともなるとランチがほぼ象の餌。ロッジのオーナーであるフランス人女性に「繭子はアメリカで暮らしていたことがあるの?」と訊かれ「へ?ないよ。どうして?」と答えると「料理が大雑把だから」と真顔。その偏見、アメリカ人に怒られますよ。ジョージ・クルーニーに怒られますよ。ちなみに彼の婚約者はイギリス人。つまり毎晩フィッシュ&チップスですね(超偏見)。生姜ご飯の方が美味しいと思うけどなー。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website