らっしゃーい!│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#008

らっしゃーい!

2014-08-07 20:49:00

 暑い~。暑い~。よれっよれの西山です。パリで思うように仕事が進まず、編集者さんにその旨を話すと「そんなことは想定内です」とあっさり。さすが、わかっていますね。そんなわけで、自宅でじとっと推敲と向き合う日々です。これだけ暑いのですが、私はエアコンが嫌いなので温室のような部屋で仕事をしています。しかし、それでは熱中症の危険がありますね。そこで大活躍なのが保冷剤です。我が家の冷凍庫には常にカチカチに凍らせた保冷剤が入っており、それを手ぬぐいに包んで首と脇の下にあてて、きゅっと結ぶのです。おかしな姿。使っているのはどれも純和風の手ぬぐいなので、祭に参加している人みたいです。まあ今は、夏祭りに行く時間もないのでそれも良しとしましょう。みなさんはたくさん夏の思い出をつくっていますか?新島に行って、雑誌『Fine』のスナップに載るとか、最高ですよね。もちろん36年生きていれば私にも夏の思い出ぐらいありますよ。でもね、36年生きているからほぼ忘れています。楽しい夏の思い出をつくるためには、少なかれ先立つものも必要ですね。学生さんは授業がないのでアルバイトに精を出している人も多いのではないでしょうか。

私が初めてアルバイトをしたのは高校1年生の夏でした。懐かしいなあ。初めてお給料をもらった時は、大人の階段をのぼっちゃった気がしました。スーパーのレジ打ち。小さい頃、お店屋さんごっこが大好きでレジ打ちの真似事なんてしていましたが、実際にやるとそんな可愛いものじゃありません。そこの店はまだバーコードシステムが導入されておらず、全て打ちこまなくてはいけなかったのですが、夕方前の混んでいる時間帯などはちんたらやっていると、奥様方の「早くしろや」光線がびしびし。また夕方を過ぎるとお値引き商品が出てくるんですね。値段を打って、値引き金額を打ちます。ちゃっちゃかちゃーと打って「お会計5万8…え?5万!?」。どうやら値引き金額を打つ時に「-」ではなく「×」を押してしまった模様。「す、すみません。打ち直します…」ほろ苦い思い出。ここでのバイトは、もともと夏休みの短期で入ったものだったので学校が始まったら辞めてしまいました。店長もほっとしただろうな。

友だちから「バイト先で知り合った人と付き合っている」なんて聞くと、とても羨ましかったものです。私は皆無でした。だって次に働いたの、魚屋ですから。女子高生が魚屋。白い長靴をはいて魚屋。私が「いらっしゃいませ~」と言うと、パンチパーマwithねじりはちまきの店長に「西山!魚屋はな、『らっしゃーい!』ってもっと大きな声で言うんだよ!」と注意される魚屋。女子力とは無縁の世界でありました。主な仕事はレジ打ち(ここでも!)、陳列でしたが終業後にはゴムエプロンを身につけホースで調理場の床を流してデッキブラシで磨くという、男気溢れる仕事場でした。始めは魚の名前がわからなくて、レジでお客さんに「これは鯵ですかね?鰯ですかね?」と訊いて呆れられる始末。しかし一年以上も働いていると、最終的には「スズキの背びれは鋭利なので手を切りやすい」などと女子高生にはまったく必要ない知識を得ることができました。一度しかない女子高生時代、もっと可愛らしいアルバイトをすれば良かった…。

大学に入ってからはカラオケ、居酒屋とまあ普通のラインナップ。そんな中で、初日の研修で辞めてしまった仕事があります。それは『バグチェック』のアルバイト。なんじゃそりゃという方が多いと思いますが、バグチェックとは発売前のゲームのバグを調べる仕事です。その募集広告を見た時に「あたしドラクエ好きだし、ゲームやってお金もらえるなんて楽ちんじゃーん」と思ったわけですが、実際に仕事場に行くとメラミをくらうほどの衝撃を受けました。雑居ビルの小さな薄暗い部屋に、ぎゅうぎゅうに何台ものテレビが置かれ、むさくるしい男たちがひたすらゲームをやっているのです。「とりあえずやってみて」と言われ、一台のテレビの前に座りゲームを始めました。森の中でひたすら敵を倒していくようなゲームだったような記憶がありますが、ドラクエしかやったことのない私には、何がバグだかもさっぱり。悪戦苦闘しながらやっていると隣に座っていた小太りの青年が「武器を増やしていかないと進まないよ」と、ものっすごい先輩風を吹かせて教えてくれました。「はあ…」という私に「××って技は早めに覚えた方がいい」とさらにドヤ顔。これはあかんと思い、昼休憩に入った時に責任者に「申し訳ないのですが、何がバグだかもわからなくて、私にはできそうもありません」と深々と頭を下げて辞めさせていただきました。あのまま続けたら、先輩のことを好きになってしまいそうで怖かったです。

思い返しても女子力とは無縁のバイトばかり。大学時代、キャバクラでバイトしていた子たちは何だかキラキラしていたなあ。彼女たちはお金もあったし。一度くらい経験としてやるべきだったなと今では思います。そうすれば、このゼロに近い女子力が少しは上がっていたかもしれません。ベホイミをかけてあげられる女、それが理想ですね。私はパルプンテしかできません。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website