はい、チーズ!│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#027

はい、チーズ!

2015-05-27 10:30:00

 先日、東京ドームに今季初の野球観戦に行ってまいりました。センターバックスクリーンの脇にある『アンダーアーマールーム』というセレブな場所からの観戦。そこからは広いグラウンドがパノラマで見えて、人工芝がキラキラと美しかったです。豪華なビュッフェもついていて飲み放題の食べ放題、こりゃ天国じゃーともぐもぐぱくぱく。一緒に行った友人と巨人vs広島の試合を眺めながら、「広島の監督って、緒方なんだ」「ああ、中條かな子の旦那ね」「こいつとこいつとこいつの嫁は女子アナだよね」「違う、こいつは離婚した」などとセレブっぽさの欠片もない下世話な会話をしていたところ、部屋の真ん中で、若い、可愛い、細い、と走攻守そろったまるで蓑田浩二のようなギャル2人が試合そっちのけで自撮りを繰り返していました。親切な私が「撮ってあげるよー」と声をかけると、蓑田ギャルたちは「あ、大丈夫でーす」と笑顔で言いました。すると隣の友人が、私にこそっと「若い子はね、自撮りがいいの。自分たちの顔を確認しながら納得いく可愛い顔を撮りたいの」と教えてくれました。友人は大学で教鞭をとっているので、若い子の生態がわかっているのです。そっかー、SNSには女子力の高い自撮りが氾濫しているものね。女子力が低い私は、自撮りが本当に苦手。というか、そもそも写真に映ることが苦手です。

 デビューしてから数年は、スチール撮影がとても多かったことを憶えています。ヘアメイクさんに美しく作ってもらい、スタイリストさんが用意してくれた素敵な衣裳に身をつつみ、カメラマンの前に立つ。スタジオのペンキの匂いは、私にとって『プロの匂い』でした。カメラマンによっては「いいね!」「可愛いね!」などとテンション高く言葉を放ちながら撮る人もいて、今だったら「絶対ウソ。絶対そう思ってない。もう帰りたい。家でデスパレードな妻たちの続き見たい」となってしまうけど、20歳そこそこの私は、その言葉を真に受けながら気持ち良くフレームにおさまっていました。お洒落な音楽が流れるスタジオでストロボが光る感じは、若い私にとってすごく華やかな世界で、スチール撮影が大好きでした。でも今はものすごい苦手。何だかね、レンズの向こうにいるカメラマンに、自分がいかにつまらない人間かがバレているような恐怖感があるのです。今はスチール撮影なんて宣材写真を撮るぐらいしか機会がないのでますますプレッシャー。緊張でワキ汗びっしょりかきながら、何枚も何枚も撮り、その中から選りすぐりの1枚をマネージャーはじめ事務所のスタッフが選んでくれます。選んでくれた写真を見ると「へー、私ってこんな顔なんだ」と思います。鏡に映る自分よりも、写真に写る自分の方が本当の顔なんだと最近は思うようになりました。と、ここまでは仕事上の写真の話し。書いていて、あまりの暗さにマジで絶望5秒前。

 じゃあ仕事以外での写真はどうかって言いますと、そちらもできれば写りたくない!一番嫌いなのはフラッシュ!めちゃめちゃブスになるんだもん!あれ?もともとブスなのか?今は猫も杓子もSNSの時代なので、人が集まると必ずといって誰かが写真を撮り出します。「これ載せても良い?」と訊いてはくれるものの、そこで私が写真をチェックして「これはNGで」なんて言えない。そこまでメンタル強くない。だから、みんな自撮りに走るのかな。自分の可愛いものだけを選べますもんね。しかも今は写真の加工が手軽にできるもんだから、さあ大変。原型をとどめてない人が多すぎる!男の子が写真を見て「この子、紹介してよ」という時代はもう終わったのだなー。かなりの確率で別人来ちゃいますからね。しかし世の中とは厳しいもので、当たり前となった加工技術が効かないものもあります。それは運転免許証の写真。ゴールド免許の優良ドライバーである私は今年、5年ぶりに免許の更新に行ってきました。いつもより入念にメイクをして、ブローをして、顔回りがすっきり見えるシャツを着て、東京都庁へ。免許証の写真はヤバくて当然みたいなところがありますが、実は今までの4枚の免許証、私のは全然ヤバくありませんでした。人に見せるのも恥ずかしくないし、むしろ見て見てといった感じ。なので、今回もまあ大丈夫だろうと高を括っていました。講習室で真面目に講習を受け、事故の賠償で人生が破滅した人のVTRに「やっぱり運転なんてするもんじゃねーな」とぶるぶる身を震わせた私、その後にもらった免許証を思わず二度見。誰、このおばさん……。生活苦のために犯罪に手をそめたみたいな幸の薄いおばさんがじっと私を見ていました。人生を破滅させたくないし、もう免許を返上すべきかもしれない。

 と、写真が苦手な私ですが、東京ドームではこんなセレブっぽい観戦は最初で最後かもと思い、記念に撮ってもらうことにしました。頼んだ若いお兄さんに「逆光になっちゃうんですけど」と言われ「大丈夫、逆光ぐらいの方がちょうど良いから」と私たち。撮っていただいた写真は、いい具合に顔が見えません。うん、これぐらいがちょうど良い。

image2

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
西山繭子さんの新刊
【バンクーバーの朝日】
~フジテレビ開局55周年記念映画 公式ノベライズ~
戦前のカナダ・バンクーバーで生き抜く
青年たちの葛藤・奮闘・友情を描いた最高傑作!


バンクーバーの朝日
西山繭子
マガジンハウス文庫
320p 620円(税別)


オフィシャルサイト→FLaMme official website