ゆーわくfile.2 入りたいような、たくないような店構え│中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

Writer

中島さなえ

#002

ゆーわくfile.2 入りたいような、たくないような店構え

2015-06-15 15:29:00

 店構えにはそれぞれが醸し出しているオーラがあって、通りがかった客が引かれるかいなかが決まってくる。特になにも決めずブラリと食事場所を物色している時は、店構えは特に重要だ。客側としてはちょっと良さげな店だなと思っても、店のおばちゃんが完全に外に出てしまっていて通行人を凝視などしていた日には、それだけでササッとスルーしてしまうという繊細さもある。「安くて美味い店を勘で決める、しかも外さない!」をモットーとしている食の達人にくっついて歩いている時などは、彼らがいかにアンテナを張って店構えを注視しているかがわかる。いわば客と店構えの無意識下での駆け引きがあるわけだが、時に、「美味しそう、美味しくなさそう」以前に我々の足を無理やりとめてしまう店構えというものがある。

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 たとえばこの江戸川区某所にある中華料理店。通行人に対して真っ向から謎かけを仕掛けている。「景気回復とかけて期間限定閲覧ととく」まったく答えがわからない。どうも中華料理には関係がなさそうだ。もちろん、答えを知りたければ店内へどうぞという誘いなのだろうが、さほど答えを知りたくもない、となった時、少し戸惑いながら余韻を引きずり店の前を去ることになるというやっかいな“ゆーわくぶつ”なのだ。この店頭の謎かけは結構な頻度でお題を変えているのだが、ある時は「餃子とかけて、ととのいました」と、「解く」部分すら忘れ去られ前のめりで書かれている時もあるからさらにやっかいだ。見れば他にもビッチリと書き込まれた色んなものが窓をつぶさんばかりに貼りまくられているのだが、だいぶ至近距離で見ないと読めないくらいの字の小ささ。本当にやっかいだ。

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 また、とある居酒屋の店先には、こんな謎の造形物がさりげなく置かれていることも。丸裸で土下座をしている人型のなにか。そして近くにある張り紙には、「美大の大学生に造ってもらいました」と一応説明らしきものも添えられているのだが、結局なんのために造ってもらったのか意図がわからない。知りたければ店に入るしかない。しかしさほど答えを知りたくもない、となった時、多少後ろ髪をひかれながら余韻を引きずり店の前を去ることになる。
 どうせなら「入りたくなる」「入りたくなくなる」どっちかに決めてほしい。わたしたちの胸にモヤモヤを残す微妙でトリッキーな店構え、これも世にはびこるゆーわくぶつとして要注意だ。

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中島さなえさんINFORMATION

作家。1978年、兵庫県宝塚市に作家・中島らもの長女として生まれる。2009年エッセイ集『かんぼつちゃんのきおく』、2010年初小説『いちにち8ミリの。』でデビュー。他に小説『ルシッド・ドリーム』『放課後にシスター』、エッセイ集『お変わり、もういっぱい!』がある。サックスプレイヤーとしてバンド活動もしている。
久々の新作となる小説『わるいうさぎ』をこの夏、双葉社より刊行予定。

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