おっす!おらミセス!│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#031

おっす!おらミセス!

2015-07-27 11:54:00

 先日美容院に行ってきました。ロングヘアの時は、へたしたら1年間美容院に行かなかったりするのですが、今はボブスタイルなのでこまめにカット。ということで3ヶ月ぶりの美容院。こまめじゃないか。表参道の一等地にある行きつけの美容院のまわりには、意識が高すぎるオーガニックのカフェとか、首元ズルズルのTシャツが1万円以上するセレクトショップとか、気後れしてしまう店が並んでいます。本当はそんな場所に足を運ぶ時は、お洒落にも気を遣うべきなのだろうけど、暑いから家着のままでGO。そんな私のことを10年来のヘアメイクさんは温かく迎え入れてくれます。美容院では綺麗にしてもらえることが一番の目的ですが、それ以外の楽しみに雑誌と読むということがあります。シャンプー台から「きもちいいー。チョーきもちいいー」と感想を北島康介風に述べる私を「こちらのお席へどうぞ」と困惑しながら促がす若い美容師さん。誘導された席には、すでに数冊の雑誌がセッティングしてあります。腰を下ろし、さあ読むべと手をのばしたその瞬間ハッとしました。緑の中で佇む美しい清原亜希さんの表紙、それは『ミセス』という雑誌でした。ミ、ミ、ミセス!震える手で、その一番上にあった『ミセス』をとると、その下には微笑む黒田知永子さん。それは『eclat』という雑誌でした。二冊とも40~50代をターゲットにした雑誌。心の中で北島康介ばりに「なんも言えねえ」とつぶやいた私です。

 数年前のとある日、美容院から戻った姉からメールがありました。そこには「ファッション雑誌ではなく、とうとう『クロワッサン』を渡されました」という言葉がしょんぼりした絵文字と共に書かれていました。美容院に通い始めて20年ほど。年齢の移り変わりとともに渡される雑誌も変わってきました。『Cancam』といった赤文字系の雑誌を渡された時代はいつのことやら、今では『ミセス』。このままいくと『終活読本ソナエ』を渡される日も近いぞ。ただ、こちらがこんな風に思っているのだから、美容師さんもかなり気を遣っていると思うんですよね。今回も「ちょっと年齢層が高めの雑誌でしたね。変えましょうか?」と申し訳なさそうにおっしゃっていました。大人な私は「いえいえ。普段絶対に手にとらない雑誌を読んでみたいので、これで大丈夫です」と笑顔で対応。ミセス世代だと認めないあたりは往生際が悪い。パラパラめくったところ、とにかく着心地にこだわったファッションが並んでいました。ミセス雑誌では赤文字系で頻出する『モテ』というフレーズを目にすることがありません。この雑誌特有の『モテかわ』『ゆるふわ』『きちんとガーリー』みたいなキャッチフレーズって面白いですよね。『この夏は、ゆるふわガーリーをスタイリッシュにさりげなく』とか、まともな社会人が書いたとは思えないわけのわからなさ。以前、『秋は薄軽ブルゾンできまり!』という文字を『津軽ブルゾン』と空目して「え?津軽?津軽のブルゾン?」と激しく困惑したことがあります。あと最近読んで面白かった雑誌は『MADURO』。ちょいワルおやじよりも上の年齢層をターゲットにした雑誌ですが、ページをめくるたびにジジイ、ジジイのオンパレード。『いけてるジジイの靴』とか『やんちゃなジジイの旅』とか、公の場でジジイと言って許されるのは毒蝮三太夫さんだけかと思っていました。まあ高齢化社会ですからね、そのうち『モテババアの夜遊びファッション』なんてフレーズが表紙に躍る雑誌も出てくるかもしれません。

 中学生、高校生の頃は『ピチレモン』『プチセブン』『オリーブ』『おちゃっぴー』等々、たくさんの雑誌を読んでいました。当時はインターネットが普及していなかったので雑誌が大切な情報源だったんですよね。誰かが買ったものをみんなで貸し借りしていたのを憶えています。ちなみに私が毎月買っていたのは『IN ROCK』という音楽雑誌。当時、ニューキッズオンザブロックの情報を得るにはこの雑誌しかありませんでした。そういえば誰も私に「貸してくれ」って言ってこなかったなあ。今ではネットで情報が氾濫しているので「雑誌が売れない」という声は耳にタコ。廃刊、休刊になる雑誌も多いですね。私も昔より読まなくなりましたが、唯一、毎月買う雑誌があります。それが写真の『GOSSIPS』。最近の雑誌ってとにかく分厚くて重たいんですよね。もう凶器かってぐらいの重さ。その点、この雑誌は薄くて軽い。お値段も430円と手頃。私はこれをお風呂の中で読むのが大好きなのです。内容はと言うと、海外セレブのゴシップをはじめ、ファッションやビューティーや生き方。それらが、まあ見事に参考にならないんですよ!そこが最高!稼ぐ額が違う、手足の長さが違う、髪質が違う、文化が違う、風土が違う。私がどう頑張ったってミランダ・カーに近づけるはずがない。だから、純粋に雑誌を楽しめるんですよね。ちなみに今月号によりますと今季のスカートは『アシンメトリカル・スプリット』に注目だそうです。女子力高めのプロレス技みたいな名前ですね。

image2

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
西山繭子さんの新刊
【バンクーバーの朝日】
~フジテレビ開局55周年記念映画 公式ノベライズ~
戦前のカナダ・バンクーバーで生き抜く
青年たちの葛藤・奮闘・友情を描いた最高傑作!


バンクーバーの朝日
西山繭子
マガジンハウス文庫
320p 620円(税別)


オフィシャルサイト→FLaMme official website