キラキラネーム│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#044

キラキラネーム

2016-02-08 12:03:00

 いまだにお洒落と思っていて入店時に緊張するスターバックスですが、外国だとあの緑のマークを見ただけで少し安心するみたいなところがあります。昔はマクドナルドだったけどなあ。時代ですね。先日行ったパリでも数回入りました。不思議と外国だと緊張しない。ただ、ぼんやりしすぎて日本のスターバックスカードを出して「マダム、使えないぜ」と言われたり。オーダーするのは決まってラテです。怖くてカスタマイズなどできないのでスムーズではありますが、ここで難関が一つ。外国のスタバだと名前を聞かれる場合があるのですが、正解を書かれたことがありません。「Maiko」「Miko」「Miue」いつも惜しい。以前、マニラのスタバでは「Mairo」と書かれており、イタリア男みたいになっていました。私のように「子」がつく3音の名前って、外国の方には言いづらそうだなといつも思います。2音はそうでもない。ミコ、カコ、キコ、チコ・・・・・・&ジプシーズ。母音が3つ続くのが言いづらいのかな。こんな時は、もっとインターナショナルな名前が良かったなと思います。私の友人に「譲」と書いて「じょう」と読む男性がいるのですが、彼は帰国子女な上に世界を飛び回る商社マン。外国では「Joe」ってな感じで羨ましい。思春期の頃はとにかく「子」がつかない名前に憧れました。名前はその人を表わすとても大切なもの。可愛らしい名前であれば女子力も高そうに見えるというものです。

 昨年の赤ちゃん名前ランキング女の子部門、「子」がつく名前が5年ぶりに復活しました。しかも1位。その名は「莉子(りこ)」。うーん、違うんだよな。もっと、何と言うか、「子」がつく名前には昭和感が欲しい。私の家族、親戚の名前をざっと挙げますと「やすこ、ひろこ、てるこ、くにこ、けいこ、ゆうこ、ようこ、あきこ、まゆこ、あつこ」。見事なまでに「子」がついているし、昭和感がすごい!先頭の「やすこ」は大正生まれですけどね。私の「繭子」という名は本名です。とても難しい漢字。その昔、習字の授業ではだいたい真っ黒な塊になっていました。ぼんやりとどんな字か知っていても書けない人がほとんどです。そんな時は「左が糸で、右が虫」と説明します。人の名前に虫が入ってるってそうそうないですよ。そう言うと、みんな手塚治虫の名前を挙げますが、あれは本名ではないですから。まあ虫がついてようが、彼氏がいつまで経っても私の名前を書けまいが、気に入っている「繭子」というこの名前、特に作家としては並んだ時にしっくりきます(写真参照)。

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しかしこの「繭子」、由来は特にありません。姓名判断も最悪。では、どうしてこの名前になったかと言うと「姉の名前と同じ画数」という驚愕の投げやり感。年子で私が生まれた時には、父はすでに家におらず、色々わちゃわちゃしていて、名前どうすんべ?じゃあ、姉と同じ画数から選ぶか?うーん、そうすると「蘭子」か「繭子」だな。じゃあ、繭子で!ってな感じ。本当に投げやり!ちなみに姉は「顕子(あきこ)」といいます。こちらはきちんとした由来があり、韓国式につけられたものです。趙家長男の長子には「顕」という字を使うしきたりがあるらしく、この名前になりました。数年前に話題になった韓国のナッツ姫も趙家長男の長子なので「趙顕娥(チョ・ヒョナ)」といった風に「顕」の文字が入っています。この事件の時、我が家のナッツ姫に尋ねたところ「ナッツを皿に盛られて出されたら、子どもたちに持って帰れないから逆に激怒」と申しておりました。その我が家のナッツ姫の子どもたちは8歳、4歳、1歳の男児でありますが、3人とも普通の名前です。いわゆるキラキラネームではありません。先日、次男の幼稚園の参観日に行って来ましたが(普通、叔母さんはいない)、摩訶不思議な名前のオンパレード。「ろいど」「みらん」「るきあ」。私、普通の名前で良かったわ。これはあくまでも個人的な意見ですが、あまり賢くない親ほどややこしい漢字の名前をつける傾向にある気がします。その根幹にはヤンキーの「夜露死苦」がある。漂うドンキ・ホーテ感。そしてEXILEの香り。だからね、名前って本当に大切なんですよ。「亜里沙」とか「怜奈」とか「悠香」とか、女子力高そうだもん。いい匂いしそうだもん。「繭子」は女子力という概念では、だいぶ劣る。絹になったら美しいけど、繭のままだと・・・・・・蛾じゃん。蝶じゃなくて、蛾だからね。以前、スペインのバルで話していたおじさんに「日本人の名前には、それぞれ意味があるんでしょ?君のマユコというのはどんな意味?」と聞かれ、私が「Capullo(繭)」と答えると動揺しながら「そ、そうか」と困った顔をしていました。あとからスペイン人の友だちに聞いたところ、スペインでは「Capullo」には「バカ」というスラング的な意味があるらしい。蚕に入ったまま何も知らない人、といった日本でいうところの井の中の蛙ですね。もうスペインでは自分の名前の説明はするまい。ちなみに通っていたスペイン語学校では、生徒はそれぞれスペイン人の名前を自分につけていました。たぶん先生が覚えやすいようにだと思うけど。私は、大好きなダビド・シルバに近い「シルビア」という名を選んだのですが、それを選んでから先生に「名字も決めて」と言われ、結局「シルビア・シルバ」という漫才師のような名前になってしまいました。本当に名前って大切ですね。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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