春一番│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#045

春一番

2016-02-22 13:46:00

 まだまだ寒い日が続いておりますが、バレンタインの日、東京には春一番が吹きました。高校生の時、新宿駅で芸人の春一番さんに握手をしてもらったことがあります。ガン黒とまではいかなくとも、そこそこのギャルだった私に「わー!握手して下さい!」と突然声をかけられた春一番さんは、少し戸惑いも見せつつも「どうも」と握手をして下さいました。若くして亡くなられたのが残念ですね。その時に「元気ですかー?」という追悼コメントを送ったアントニオ猪木さんって凄い。ちなみに、私はアントニオ猪木さんとの遭遇率が高く、今まで街で何度もお見かけしています。生前のジャイアント馬場さんにも遭遇したことがあります。力道山さんはさすがにありません。ここまで書いて、今回は女子力底辺でプロレスネタかと思われそうですが、違います。春一番のことを書いたら、話が逸れまくっちゃっただけで、本当は春一番が吹いて、ああそろそろ春物のお洋服が欲しいなあと思っていた女子力マックスの繭タンなのです。

 私は寒がりなので、この冬もひたすらダウンコートを着ていました。そもそもコートは、トレンチコートとダウンコートの2着しか持っていないので、必然的に真冬はずっとダウンコート。ほとほと飽きた。もう見たくないってぐらい着た。数年前にスペインのセレクトショップで買ったモンクレールのダウンコート。当時ユーロが100円代だったこともあり、1080ユーロのモンクレールはかなりお得だったので即購入。それまではお金持ちがこれ見よがしに着ているイメージがあったのですが、実際に袖を通してみると、ぬくぬくの布団を着ているような温かさ。品質の良さに感動しました。帰国後、日本のセレクトショップで同じものが198000円で売っているのを見て、すごい差額だなと思いつつも、ヨーロッパから日本に届くまでに関わっている人々を想像したら仕方ないのかなと。モンクレールの工場で働くおじさんの息子の学費とか、商品が積まれた飛行機を操縦するパイロットの愛人のプレゼント代とか、日本のセレクトショップに届ける佐川急便のお兄さんの散髪代とか。想像をすればするほど、一つの商品を通してたくさんの人の生活が見えてくる。実は今年、一番最初に見た映画が『トゥルー・コスト』というドキュメンタリー映画でした。これは現代社会に溢れるファストファッションの裏で何が起きているかという真実を描き出した作品。2013年にバングラデシュで衣料工場などが入るビルが倒壊し、1127名の死者が出る悲惨な事故がありました。崩壊したビルの瓦礫の山から出てくるたくさんの洋服。そのタグは、どれもこれも女性たちのクローゼットに一枚は入っているであろうメーカーのものでした。最近は『プチプラコーデ』なるものがブログで頻繁にアップされていて、ファストファッションでお金をかけずにお洒落をすることが素晴らしいみたいな風潮。悪いとは言わないけれど、私は嫌い。お金をかけずにお洒落をすることは、一見女子力が高そうに思えるけれど『プチプラコーデ』をアップしている人たちの足並み揃った凡庸さには首を傾げてしまう。安価な洋服を買っては捨てての繰り返し。もちろん私のクローゼットにも、これまでに買ったファストファッションの服が入っています。タグがついたままの服を捨てたこともあります。値札を見て「こんなに安いの!? じゃあ買っておこう」という買い物の仕方をしたことがあります。ユニクロの広告をチェックしては、欲しいものではなく、お得なものを探していたことがあります。しかし『トゥルー・コスト』を観たら、そういうことが出来なくなりました。それが良いことだと推奨するつもりはありません。だって、精神的にも金銭的にも窮屈だもん。女の子だから(38歳だけど)、色んなお洋服着てみたいもん。ああ、どうしたらいいの!と解決策が出ぬままに、ひとまず春夏のトレンドをチェック。最初に出てきたキーワードは『タッキー』でした。え?翼どこいった?と瞬時に思ったのですが、もちろん『タッキー&翼』のことではありませんでした。調べたところ、悪趣味ぎりぎりの際どいスタイルだそうです。なんじゃそりゃ。めたくそ難しいじゃないか。でもまずは挑戦。女子力を高めるためには、まずは挑戦。ということで、自分なりのタッキースタイルを作ってみました。悪趣味ぎりぎりの際どいスタイル。あれ?これって、志茂田景樹さんじゃん。そうか、今年の春夏のトレンドは志茂田さんなのだな!

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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