バックトゥ95’│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#046

バックトゥ95’

2016-03-04 15:13:00

 最近『95』という小説を読みました。1995年の渋谷を舞台にした物語。作者の早見和真さんは1977年生まれということで完全に同級生。彼の描いた1995年の渋谷は、まさしく私がいた世界でありました。その頃は『女子力』なんて言葉はまだなくて、例えあったとしても17歳の女子高生にそんなものは必要なく、スカートを短くして、ルーズソックスを履いていれば、バカでもすっぴんでも『力』が漲っていたように思います。あれから21年、まさか38歳になった自分が独身で、パジャマtoパジャマ(連載第1回目参照)をしていて、95年公開の『トイ・ストーリー』の続編である3を甥っ子と観て嗚咽をあげて号泣し、「まーたん、キモい」と言われるなどと思ってもいなかった。ああ、1995年のうちに女子力という存在に気づいていたら、今頃私はヴィクトリア・シークレットのモデルをやって大谷翔平くんと結婚していたよ!大谷くん、1995年は1歳だよ!ここはひとまず1995年を振り返ってみることにしよう。反省と後悔の中に女子力向上のヒントがあるかもしれない。

 私は13歳の時からずっと日記をつけています。今年でもう25冊目です。誰かに読まれたら切腹するしかない、そんな日記です。1995年はどんな感じだったかとパラパラめくってみました。「3月24日 ××くんと56日ぶりに電話で話せた。私のこと好きなくせに何でベル無視するんだろう」「5月8日 ママがまたお弁当にちくわを入れた。カレー味のはいいけど、そのままのはおかずにならない。むかつく」「8月25日 チアの練習、なかなかいい感じ。私が一番可愛い。××にはもう少し痩せて欲しい」「11月7日 渋谷でムラジュン見た。向こうも私のこと見てたっぽい」あれ?これはビョーキの子の日記だね。うん、この子はビョーキです。1995年の私はすでに女子力欠損症を患っていたのだなあ。しかし17歳の私はそんな病には気づかず、人生を謳歌していました。都心にある中高大一貫の女子校に通う、ごくごく普通の女子高生。校則で決められた膝丈スカートを、私たちは通学下校時に最寄り駅のトイレでくるくると短くしていました。パンツが見えそうなほどに短いスカート。エスカレーターの後ろにいたおじさんが鏡を使って覗いていたこともあります。ただ私の場合「女の子は身体を冷やしちゃダメ。赤ちゃん産めなくなっちゃう」と母からブルマの着用を義務づけられていたので、おじさんが鏡で見ていたのはブルマです。当時「繭子、いっつもブルマ履いてるよね」と笑っていたノーブルマな友人に対して、心の中で「将来泣きを見るぞ」と思っていましたが、今、その友人は立派なお母さんです。死にたい。短いスカートから出た生足には、学校指定の三つ折靴下。それを梅雨時にはなかなか乾かない厚手のルーズソックスへと履き替え、ローファーはだいたいリーガルかハルタで、リーガルの方が高価だから少し格好良い。私はもちろんハルタでした。渋谷に行けば、そんな女子高生がわんさかいる時代でした。私が通っていた学校はテレビ、雑誌に出ることが禁止されていたので、早見和真さんの『95』にも描かれているような有名高校生に対する憧れがありました。友だちの男の子が載っていたりすると、ちょっと誇らしくて、あまり可愛くない女の子がギャルってだけで載っていたりすると「なんだよ、このブス」とけちょんけちょんに悪口を言いました。渋谷には「チーム」と呼ばれる不良グループがいて、どことどこが分裂したとか、パー券をさばいてポルシェを買ったとか、どこまでが本当なのかわからないような話がはびこっていました。ルーズソックスを履いている私は、大人から見たら同じように不良に見られていたのかもしれません。でもスカートの下はブルマだし、何しろ私が所属していたバトントワリング部は毎年全国大会に出場する強豪だったので、ほぼ毎日部活。部活がない日はアルバイト。遊んでいる時間などまったくありませんでした。アルバイトは高校では禁止されていましたが、働かなきゃ部費も遠征費も衣裳代も払えなかった。だから、チームメイトが「みんなでお揃いのTシャツを作ろうよ!」とクソださいTシャツを作ったりすると心底腹が立ったものです。もちろんその恨み節は日記に懇々と書き連ねていましたよ。しかもそのアルバイト先が魚屋だなんて、女子高生らしくないったらありゃしない。これを選んだ時点で女子力低すぎるだろ。ちなみにアルバイトのことも日記には何度も登場します。「9月2日 リンさんは中国から来て頑張っていて、すごいなと思う。私も頑張ろう」「10月9日 リンさんがお菓子をくれた。シェシェ」「12月30日 レジのお金間違えたの私じゃなくてリンさんだと思う」何だかもう、この女の場合、女子力の問題ではありませんな。写真は95年の私。スカートの下はもちろんブルマ着用。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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