危機回避能力│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#056

危機回避能力

2016-08-05 17:01:00

 「ポケモンを捕まえに行こう!」と虫かごと虫アミを持って甥っ子を誘ったところ、「何やってんの?」と冷たく言われ、撃沈した西山です。先日夜に世田谷公園付近を車で通ったところ、あまりの人の多さにお祭りかと思いました。すごいですね。楽しむのは良いですが、しっかりルールは守っていただきたいところ。歩きスマホをやっている人って、例え日本経済新聞を読んでいたとしてもバカに見えます。何よりも腹立たしいのは、周りの人が自分を避けてくれると思って歩いているところ。私は自転車に乗っていて、前から歩きスマホの人が来ると、危ないので「前!前!前!」と声をかけます。「しむら、うしろ!」の前バージョンですね。向こうはあからさまに変なばばあが来たって顔をしますが、だってぶつかったりしたら、自転車の方が責任を問われそうじゃないですか。危機回避能力も女子力の一つなのです。

 私はよく一人旅に行くのですが、女性の一人旅において危機回避能力というのは重要事項の一つであります。「現地で知り合った人のおうちに遊びに行って~」とか「私って、誰とでも打ち溶けちゃうから~」と聞くと、すごいなとか羨ましいなとかではなく単純に「バカなんだな」って思います。私は旅先で出逢った人、特に向こうから声をかけてくる人は全員疑ってかかります。悲しいことだけど、自分の身を守るには、いたしかたない。初めての一人旅は1998年、W杯開催中のフランスでした。美食の町リヨンの道端にあるATMでお金をおろそうとしていたところ、操作に戸惑う私に一人のムッシューが声をかけてきました。「大丈夫?手伝おうか?」的なフランス語を話しながら、私の横に立つおっさん。これはガイドブックに書いてあった強盗のパターンではないか!震え上がった20歳の私は「ノンノン!ノンノン!」と叫びながら、その場を去ったのです。別のATMで何とかお金をおろし、その日の宿へ向かったところ、ロビーには何と先ほどの強盗のおっさんが!フロントの人と談笑していたおっさんも「あ、さっきの」的な感じで私との再会にびっくり。少女漫画の場合、ここから恋に発展するのですが、20歳の私に対して、おじさんは70歳ぐらいで、そもそもおじさんがお金をひったくって走り出しても、たぶん余裕で追いつけるだろって感じなのに、どうして強盗だなんて勘違いしてしまったのだろう。おじさんに先ほどの無礼を詫びると、おじさんはにこやかに「いいよ、いいよ」と言ってくれました。メルシーボークー。

 声をかけてくる人は疑ってかかりますが、助けを求めるために自分から声をかけることも時には必要。スペインのバスク地方にあるビトリアという街でのことです。その日の夜0時近くの寝台列車に乗ってパリに行くため、私は夜の駅舎に一人でぽつんとおりました。あいにく日曜日でバルやカフェはことごとく閉まっていて、しかたなく駅舎にぽつん。11月のバスク地方はとても寒く、こりゃ風邪ひくわと思った私は、ニット帽を探しに行ったのですが、ここもやはりあいにくの日曜日。しかたなく唯一開いていたお土産屋さんで赤と黄色(スペイン国旗)のボーダーのニット帽を購入。帽子がなかったら凍えていたなと思いながら、夜の駅舎で私は一向に進まない時計を繰り返し見ていました。駅の外からふいに聞こえる酔っ払いの奇声にびくつき、駅構内を用もなく歩くいかつい男の姿に怯え、恐怖と寒さで心労はピーク。その時、一人の警察官が夜の駅舎にふらりと見回りにやって来ました。もうギブと思った私は、彼に声をかけると「私は夜の列車に乗ります。一人で待っているのが怖い。たくさん見回りに来て下さい」と涙目で訴えました。警察官は、つたないスペイン語を話し、今にも泣き出しそうなわりには、スペインカラーのニット帽でごきげんな感じを醸し出しちゃってる謎のアジア人に不思議そうな顔をしたものの、何やら無線でやりとり。すると、しばらくして無線で呼び出されたらしい警察官が一人、また一人とやって来て、最終的には5人の警察官が私の警護をするというまさかのVIP待遇。そして時間通りにやって来た寝台列車フランシス・ゴヤ号、それに乗り込む私を警察官たちはホームで手をふって見送ってくれました。ムチャス・グラシアス。

こんな風に危機回避能力の高さを書き連ね、自分の女子力の高さをアピールしてみたのですが、でもちょっと、待って。本当に女子力が高い人って、自分で頑張らなくても勝手に男が守ってくれるんじゃない?やだ!羨ましい!でもさ、ここまでたくましくなっちゃうと、守ってくれる男を見つけるのが大変なのですよ。ちなみに今、ぱっと脳裏に浮かんだ自分を守ってくれそうな男はプーチン大統領でした。写真は、一人暮らしを始めた時に「不審者が進入したら、これを使いなさい」といただいた熊をも撃退するスプレーです。しかし注意書きを読んだところ、室内で使用した場合、不審者はもちろんなのですが、己もノックアウトするそうです。どうすりゃいいんだ。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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