ナタリー!│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#057

ナタリー!

2016-08-18 14:18:00

 オリンピックも終わってしまい、もう西山の夏も終わった感じすらします。水球、ポセイドンジャパンのバスローブ姿にめくるめく妄想をし、体操の白井健三選手のような弟がいたらと妄想をし、銅メダルをとった福原愛選手の涙に、ああこの後選手村でイケメンの彼氏と会うんだろうなと妄想をし、ウサイン・ボルトと結婚したら子どもの運動会の保護者リレー圧勝だなと妄想をし、とにかく妄想しっぱなしの16日間でした。アスリートたちはこの祭典のために決死の努力をしているのに、申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかしプロ妄想家のわたくしも、オリンピック開幕前に決死の努力をしたのであります。それは7月末に行われたバレエのプレコンクールでした。

 ここにも何度か書いていますが、大人になってから始めたバレエもそろそろ5年。付随して女子力も上がる一方であります。よく続いているなあと自分でも感心しています。これまで春に行われるスプリング・フェス、冬に行われるスタジオのクリスマス会、と何度か人前で踊ってきました。しかしそれらはスタジオの仲間たちとみんなで踊るものだったで、多少間違えたところでまあ大丈夫(そんなはずはない)といった安心感がありました。そんな中、今回出場したプレコンクールは1人で踊るという大事件!課題曲の中から選んだバリエーションを5名の審査員の前で踊るのです!ローザンヌへの第一歩、追いつけ追いこせ武田鉄矢!違う!熊川哲也!というのはもちろん嘘で、プレコンクールは、金さえ払えば誰でも出られます。バレエを始めて3日でも金さえ払えば出られます。世の中、ものを言うのは金であります。本番は7月末、春から少しずつ練習を始めて、6、7月はもうバレエ漬けの日々。夜の練習が終わって帰宅するのは0時近くといった感じでした。どうしてそこまで頑張れたかといえば、やはり金を払っているからですね。参加費、衣裳代、レッスン費に加え、トゥシューズやトゥパッドを新調したら7万円ほどの出費。1分半踊るのにそれだけかかるのだから、やはりバレエというのは金持ちのための道楽なのでありましょう。

 私が踊ったのは『白鳥の湖』の中の黒鳥のバリエーション。何故これにしたかと言うと、ブラックスワンの衣裳が着たかったから。以上。先生に伺ったところ、初めての出場でこれを踊る人はまずいないということでした。でも私は踊りたい。何故なら金を払っているから。先生に無理を言って私でも踊れるようにアレンジしていただき、ナタリー・繭子・ポートマン誕生。そう、気分はまさにナタリーでありました。先生もレッスンの時に「はい、じゃあ次はナタリー」と言ってくださいましたが、思い返せば若干バカにされてる感がありますね。しかしナタリーへの道は険しく、あまりの出来なさに練習中に何度も泣きそうになりました。いつも穏やかな先生がコンクールの練習となると豹変、高校生の部活以来のしごきに遭い、疲労困憊の日々。1分半と聞くと短く感じますが、踊っている私は、後半はもう死んでしまうんじゃないかってぐらいフラフラで、最後のポーズでばっちり決めた途端に嘔吐なんてこともありえる状態でした。バレエのコンクールで嘔吐しているバレリーナなんて見たことない。女子力底辺の極み。一緒に出場する5人の仲間たちと励まし合い迎えた本番当日、会場はたくさんのバレリーナたちでごった返していました。朝から行われていたコンクールは、小学生部門、中学生部門、高校生部門、そして私が出る『シニア部門』と分かれています。もうシニアですよ、私。それだけたくさんの人が出場するのだから、鏡がある楽屋なんてもう一切空いてなくて、私たちいきいきシニアは、控え室として開放していた畳の部屋で準備することになりました。畳の上で輪になりダンボール箱を鏡台代わりに、ぱたぱた化粧をするいきいきシニアたちの姿は、どう見ても場末の温泉保養地に来た旅一座でした。私は当初、映画『ブラック・スワン』でナタリー・ポートマンがしていた目の周りを黒塗りにするメイクにしようかなと思っていたのですが、せっかく練習したのに、審査員がメイクにしか目がいかなくなっちゃうなと思い、普通のメイクをすることにしました。普通といっても、バレエのメイクですから、そこは普通じゃありません。瞬きしたら風が吹きそうなほどのつけ睫毛に、どぎついアイライン。鏡に映った顔は、バンコクのおかまショーで見かけた顔でした。緊張の中、刻々とせまる時間。何だか背中が痒いなと思っていると、先生に「西山さん、背中が真っ赤ですよ」と言われびっくり。実はこれ蕁麻疹で、このことを後日母に話したところ「あなた小さい頃、ピアノの発表会とか受験の前とか緊張するといつも蕁麻疹が出てたわ」と。どんだけ緊張してんだよ、私!と、蕁麻疹に襲われながらの本番、もう緊張しすぎて記憶がまったくありません。しかし観に来てくれた事務所の社長が、すごく褒めてくれたのは嬉しかったなあ。やはり金を払った甲斐がありました。でもがめつい西山は、その金を回収すべく、ただいまバレエを題材にした小説を執筆中であります。写真は、楽屋で仕度中のベテランストリッパーではありません。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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