スコーン、スコーン、コイケヤスコーン│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#071

スコーン、スコーン、コイケヤスコーン

2017-03-27 14:31:00

 スーパーマーケットで買い物かごを手にしてレジに並んでいると「あれ?西山さん?」と声をかけられました。振り返るとそこには以前お仕事をしたことがある映画宣伝会社の青年がおりました。すらっとした爽やかな好青年。映画の試写会に行く時はおおむねすっぴんの私ですが、彼が担当する作品の試写の時だけはきちんとメイクしていきます。彼の年齢も出身地も知りませんが、実家で犬を飼っているというマニアックな情報だけは知っている私。「あら、××さん!こんにちは!ご自宅この辺なんですか?」「少し前に引っ越してきたんですよ」「あらあら!まあまあ!」ザ・おばさんのリアクションで応じるも、これは運命かもしれないと思った私。実家の犬になかなか会えなくて寂しいと言っていた彼のためにこの際、私が犬になろうではないか。老犬マータン。おすわり、お手、おかわり、おかわり、ごはんおかわり。めまぐるしい妄想をしながらウキウキワンワンしていると、彼の視線がすっと私の買い物かごに落ちました。はっ!まずい!私がそう思った瞬間には時すでに遅し、買い物かごの中身を見た彼の眉根が一瞬曇ったのを私は見逃しませんでした。その時の私の買い物かごには、当日お一人様2個までだった特売の『マルちゃん ふっくらごはんが炊けました5P』がきっちり2個、そして『永谷園みそ汁太郎』『カレーマルシェ中辛』『緑のたぬき』というインスタント食品のオンパレードに『コイケヤスコーン バーベキュー味』。女子力ゼロどころか、もう完全にズボラな中年男性の買い物かごなわけですよ。「違うの!これは違うのよ!来週から行くイギリス滞在用の食料なの!ほら、イギリスは外食がべらぼうに高いから!普段はきちんと作ってるの!ごはんは土鍋で炊いてるし、お味噌汁だって、ちゃんとだしから取ってるの!ただコイケヤスコーンに関しては、今夜BSで放送する『スピード』を観ながら食べようと思ってたの!もう『スピード』観るの50回目ぐらいだけど、キアヌってばやっぱり最高!」そんな言い訳が頭の中をぐるぐるぐるぐるグルコサミン。ただ、急にそんなこと言われても向こうとしては「はあ…」なわけで、結局、私は女子力ゼロ認定をされたままスーパーをあとにすることになりました。

 一人暮らしだというと「ごはん作ってるの?」と訊かれることが多いです。私の場合、ごはんを作ってるどころか大袈裟に言えば、もうごはんしか作っていません。自分でも何を言ってるんだかよくわかりませんが、それだけ作ってるってことです。私は基本、朝昼晩3食きちんと食べるのですが、例えば一ヶ月の食事が3×30だとして90回あるとした場合、そのうち87回は自炊です。外食なんてめったにしないし、コンビニ弁当を買ってきて食べるとかもないです。そう言うとみんな「へー!偉いね!」と褒めてくれるのですが、偉いんじゃなくて節約してるだけだから!どこの家計もそうだと思うのですが、節約を心がける場合、やはり食費というのは一番削りやすいです。そうかといって安い輸入食品を買うことはありません。そこは国産にこだわっているのですが、偽装表示されていたらわからないよなあと思いつつ、私がこよなく愛するスーパーオオゼキに限ってそんなことはないと信じています。節約にもいくつかレベルがあるのですが、ここ最近はイギリスに向けて超節約モードだったので一ヶ月の食費は1万円ほどでした。来る日も来る日も鶏胸肉。たまに魚、豚肉。牛肉なんて超贅沢品、今年は一度も買っていません。よく「節約=もやし」みたいなイメージがありますが、もやしって足がはやい(痛みやすいということですね)ので私はめったに買いません。一人暮らしの自炊において、その食材がどれだけ日持ちするかというのも重要です。安くても無駄にしたら元も子ないですからね。ちなみに鶏胸肉はグラム33円の特売日に購入。削ぎ切りしてお酒、砂糖、塩で下処理をしてから冷凍すると使い勝手が良いです。鶏ミンチは醤油、味噌、砂糖で調理してから冷凍します。そのままでも美味しいですが、味に飽きたらカレー粉とナンプラーを足すとガパオ風になりますよ。蕪や大根の葉は捨てずにじゃこや白ごまと炒めてごはんのお供にどうぞ。主婦でもないのに、この主婦的動き、どうなのよ。しかしこうして毎日料理をしていると、女子力高そうと思われがちですが実際はそんなことはなく、料理がどんどん雑になっています。だって自分のためだけの料理なんだもん。私が食べたいものを私の味つけで、というのが基本だから上達しないし飽きる。NHK『きょうの料理』でやっていたものを作ったりもしますがすごく美味しくできたりすると、逆に虚しくなったりします。食事って本当に大切。女子力の半分ぐらいは食べ物から作られるんじゃないかとさえ思います。写真は命の次に大切なスーパーオオゼキのポイントカードです。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website