みんながつけてるやつ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#116

みんながつけてるやつ

2019-02-11 17:54:00

 先月、自分のお誕生日プレゼントにAirPodsを買いました。そして買った3日後に片方を紛失しました。色んな人に「どうして気づかなかったの?」と訊かれるのですが、本当に本当に、まったく!気がつきませんでした。職場から駅までの道すがらに装着して音楽を聴きながら歩いて、電車の中では耳に入れたまま音楽を止めて本を読んで、乗り換え駅で歩きながらまた音楽を聴いて、電車に乗ってまた音楽を止めて本を読んで、最寄り駅から家まで歩きながらまた音楽を聴いて「たっだいま~なのだ!」と冷え冷えとした誰もいない家に到着して、耳からはずそうとしたら、あらやだ!左耳しかない!だったのです。念のため最寄り駅まで、鬼の形相で地面を捜索しながら戻ってみましたが見つかりません。これは私がAirPodsを購入する時にビッグカメラ有楽町店で店員さんに「みんながつけてるヒモのない白いイヤフォン下さい」と乱暴な言い方をしたバチが当たったのかもしれません。店員さんが「はい?」となったので、私は「ほら、最近みんながつけてるやつ。ここだけの」と耳の穴を指差しました。店員さんに「あー!AirPodsですね?」と訊かれた私は「いや、名前は知らないけど、みんながつけてるやつ」と最後まで『みんながつけてるやつ』押し。だって、それぐらいみんながつけてるから。だからね、今回、この慎重派で全てにおいて完璧と知られる私が落としたぐらいなのだから、渋谷なんて歩いたら1日100個は落ちてるんじゃないかなと思うのですよ。そう思って渋谷を歩いてみたんですけどね、なぜか一つも落ちていないのですよ。不思議だわー。Apple社が日夜、回収しているのでしょうか?・・・はっ!もしかして、今そのことに気づいてしまった私はApple社に命を狙われてしまうのか!?はっ!林檎殺人事件!ああ、哀しいね~。哀しいね~。って、若い子は何のことだかわかりませんね。まあしかし、これしきのことで落ち込んでいる私ではありません。なぜなら2月も中旬になったというのにいまだにポーランド旅行でチャージしたエネルギーがみなぎっているからです。コスパ良すぎ!そうなんです、実際のところ旅というのは何よりもコスパが良いものだと思います。以前、母校の女子大(某週刊誌でヤレる女子大ランキングに見事ランクイン!)で講演をした時「ブランドのバッグを買うぐらいだったら旅をして下さい。20万そこそこのバッグのほとんどは翌年には使えません。でも旅は一生の思い出になります。だから旅をして下さい。ブランド物で買って良いのはバーキンだけです」という話をしました。講演後、生徒たちのアンケートに目を通すとその多くが「バーキンは買っていい」と書いてあり、おい!旅の話どこいった!とさすが私が10年間を過ごした母校だけあるなと思いました。まあ、そのうちの何人かでも素晴らしい旅をしてくれていたら先輩冥利に尽きるってやつです。
 今回のポーランド旅行、私が初めて海外一人旅をした1998年から何と20年!ここ最近の一人旅はパリ、NYといった都会再訪パティーンが多かったので、まったく初めての国というのは久しぶり。これまでケニア、メキシコ、アラスカと一人で色んな場所に行きましたが、自分の中では旅慣れているという感覚が一切ありません。今でも一人旅は不安だし孤独だし寂しいし、はっきり言って良いことなんてそうそうありません。それでも旅に出るのは、そこに道があるから・・・ではなく、私がドSだからだと思います。いつもぬるま湯で過ごしている自分に喝を入れたいというか、何もできない自分を改めて認識するというか。私にとっては修行みたいなものなのです。それでもエネルギーがチャージされるのは、やはり世界の広さ、そして美しさに触れられるからでありましょう。20年前に初めて一人旅をした時、まだインターネットはほとんど普及していませんでした。ホテルはガイドブックに載っている僅かな情報を頼りにFAXで予約をしました。心細くなった夜にはパリの街角にある公衆電話から日本の母親にコレクトコールで電話をかけました。その頃に比べたら、今ではネットを使えばホテルもたくさんの口コミや写真から自由に選ぶことができます。そして日本にいる家族や友人たちにはいつでもメールや電話をすることができます。旅の形はとても便利になりました。それでもワルシャワ・ショパン空港から一歩出た時の『ドキドキ』は20年前、シャルルドゴール空港を出た時のそれと何ら変わることがありませんでした。ポーランド語がまったくわからなくて、普通の水が欲しいのに買ったものがことごとくガス入りだったり、トイレに行ったら表記がDとMでどちらに入ったら良いかさっぱりわからなかったり、郵便局だと思って入ったら人の家だったり、と今回も色んなことがありました。それでもやっぱり旅って良いなあ。次はどこへ行こうかなと考える西山繭子なのであります。写真はクラクフの街で番茶をすするおばあちゃん…ではなく、ホットワインを飲む女優です。

image2

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website