オランダ紀行2│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#124

オランダ紀行2

2019-06-10 16:00:00

 前回に引き続き、オランダでの思い出を綴りたいと思います。4日目。この日は運命的な出逢いをした一冊の本をめぐっての遠出となりました。出発の数日前、国立西洋美術館に『ル・コルビュジェ展』を観に行きました。そこに展示されていた『L’ESPRIT NOUVEAU』という芸術雑誌に私は一目惚れをしたのです。その中の21号、私のスペシャルナンバーである21をどうにか手に入れたい。しかし美術館に展示されるようなものが果たして手に入るのだろうか?その夜、早速調べたところ何とオランダの古本屋にあることがわかったのです。もうこれは運命だわ、と古本屋さんにメールをしたところ「もちろんあなたが来るのは歓迎ですが、アムステルダムからは遠いですよ」とのこと。私は「問題ありません!旅は大好きなので!」と返信。そしてこの日、朝早くから電車とバスを乗り継いで3時間、古本屋がある北部の町へと向かいました。店主のエイドリアンはオランダ人にしては珍しく小柄なおじいちゃんでした。彼は学芸員や研究者といった人が来るのかと思ったら、扉から入ってきたのがリュックサックのポケットにバナナをさした「girl」だったから驚いたと言っていました。girl、41歳なんですけどね。本を買ってすぐ帰ろうと思っていたのですが、奥様がコーヒーを淹れてくださり1時間以上おしゃべりしてしまいました。そしてこれまた運命的なのですが、今回の旅は『アンネの日記』がきっかけだったことを前回書きましたが、そのアンネがアウシュビッツに送られる前にいたヴェステルボルク収容所が古本屋のある町から近いことがわかり、そこにも行って来ました。アウシュビッツと違い、収容棟も何も残っていない敷地は美しい緑に覆われ、まるで公園のようでした。その中にぽつりとあるアウシュビッツへと向かう線路の残骸に胸が痛みました。そして夜はアムステルダムに戻り、コンセルトヘボウでオーケストラを堪能。本当に贅沢な旅です。5日目。この日は出発前から決めていたミッション『アムステルダム中央駅にあるピアノを弾く』を遂行しました。ただ、到着した日に偵察に行った際、弾いている人のレベルの高さに心が折れてしまい、あまり人がいない早朝に弾きに行くことに。そして震える指でこの日のために一生懸命練習した加古隆『パリは燃えているか』を弾きました。早朝だったため、西山繭子リサイタルの客のほとんどがホームレスでみんな一様に迷惑そうな顔をしていましたが、私は大満足。「サンキューベリーマッチ!」とみんなに挨拶をしてグランドピアノをあとにしました。そしてその足でデン・ハーグへと向かい、マウリッツ美術館でフェルメール『真珠の耳飾りの少女』を鑑賞。美術なんてよくわからんちんの私ですが、何百年と人々に大切にされ続けることにはやはりそれなりの理由があるからで、その美しさにしばし呆然としていました。そこからトラムに乗ってスケベニンゲン(地名)へと向かい北海を眺めながら、白ワインとペスカトーレに舌鼓。もう幸せすぎて帰国後大丈夫だろうかと心配に。そして夜は、これまた楽しみにしていたヒュー・ジャックマンのコンサートへ。チケットが発売された時はその価格の高さにブーイングがおきていましたが、実際にあのショーを観た人は高いだなんて絶対に思いません。むしろ安いよ、ヒュー!ヒュー、ヒューだよ!って牧瀬里穂さんも言っちゃうよ!歌あり踊りあり、客いじりあり。これほどまでに人をハッピーな気持ちにできるヒュー・ジャックマンに愛され続ける年上妻のデボラは、世界一幸せな女性でありましょう。そしてこの日の帰路は初日に会ったタクシー運転手のカロさんにお願いしていたのですが、その時間はもうタクシーが使えないということで何とカロさんのマイカー。「楽しかったかい?」「うん!最高だった!」助手席ではしゃぐ娘に、にこにこ顔のお父さんのような図になっていました。6日目。この時期にだけ行われているキューケンホフ公園のチューリップ祭りへ。さすがオランダだわーと美しいチューリップを眺めながら、やっぱりここでもハイネケン。今回、オランダに来て驚いたのは本当に人が親切だということ。海外で一人旅をしていると、少なからず不快な思いをする時があるのですが、オランダではそれが一切ありませんでした。私のつたない英語にも優しく対応してくれるし、電車に乗れば「こっちに座った方が景色が綺麗だよ」とか教えてくれるしで、本当にイイ人たち。人の優しさにふれて、私の女子力も上がったことでしょう。7日目。早朝の運河クルーズに参加。まだ人のいない日曜日の朝、静かなアムステルダムを小さな船の上から楽しみました。最終日ということもあり、特に予定を入れることもなく、そのあとはゆっくり散歩をしたり、アンネの家が見えるベンチで彼女の日記を読んだりしていました。そして翌日は再びカロさんの運転で空港に向かい、ハイネケンを飲んでから帰国の途につきました。とここまで早足で2回に分けて書きましたが、それでも書き足りない。司馬遼太郎センセイのオランダ紀行のようにいつかたっぷり書きたいものですねえ。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website