甥っ子らぶ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#144

甥っ子らぶ

2020-04-13 14:23:00

 東京に桜が咲き始めた頃、どこにも遊びに行くことのできない甥っ子1号が私の家にやって来ました。目的はソニーのウォークマンに曲を入れること。クリスマスに買ってもらったものの、スマホを持つことさえ許さない姉夫婦が、甥っ子が欲しい曲をじゃんじゃんダウンロードしてくれるわけもなく、12歳の少年のウォークマンには家にあるCDの曲が入れられました。その結果、彼の曲リストはサザンオールスターズ、鈴木雅之、はたまたTOEICのリスニングという何とも少年らしからぬことに。不憫に思った叔母さんが「じゃあ、まーたんの家にはたくさん曲があるから、ダウンロードしに来るかい?」と訊いたところ「わーい!まーたん、ありがとう!」ということになりました。当日、甥っ子を最寄り駅まで迎えに行ったのですが、私のことを待っている姿を見ただけで涙が出そうになりました。赤ちゃんだった彼がもう中学生。ああ、時が経つのは何て早いんだ。甥っ子の名前を叫びながらハグをしようと両手を広げて駆け寄ると「濃厚接触したらダメなんだよ」とぴしゃり。ああ、そうだった。叔母さんよりもずっと頼もしいわね。途中スーパーに寄り「好きなもの選んでいいよ」と甘やかすと、甥っ子はオランジーナと芋けんぴをカゴに入れました。妙な組み合わせだな。私は天気の良い休日ということもあり、プレミアムモルツを購入。道中、何度も手をつなごうと試みましたが、絶対に阻止したい甥っ子は私と一定の距離を保ちながら歩いていました。42歳独身の叔母さんが暮らす家は、とっても狭いので甥っ子を招き入れるのは少々気がひけたのですが、そんな心配をよそに足を踏み入れた甥っ子は「わー!いいなー。こういう家に一人暮らしするの憧れるなー」と目を輝かせました。自分の部屋はおろか、小3と小1の弟がいる自宅にプライバシーなんてものはありません。ただ、まわりの12歳の少年たちと比べると甥っ子にはまだまだ純粋なところがありまして、今はまだ我慢できているようです。ベッドサイドには私と姉が子どもの頃の写真が飾ってあります。それを手にとった甥っ子は「わー!ママ、すげー俺に似てんじゃん!」と言いました。「いやいや、あんたが似てんだよ」「あ、そっか」男の子はよく母親に似ると言いますが、もうここは瓜二つで、私は甥っ子と話していると途中から姉と話しているんじゃないかと錯覚することがあります。これだけ自分にそっくりな男の子がいたら、そりゃ可愛いくてたまらんだろうなあ。さっそく彼のウォークマンをパソコンに繋げます。「まーたんが持ってたウォークマンはカセットだったけどね」「カセット?」そんなことを言いながら、HDDに入っている曲を見ていきます。とはいえ、私も最新の曲なんてまったく持っていない。髭ダンが「ルネッサーンス!」じゃないことだってここ最近知ったぐらいなのだから。「あ!ゆずがある!ダウンロードして」「えーっとね、まーたんが持っているゆずの最新曲は『夏色』だけど、それでも良い?」聴かせてみると「あ!知ってる!」ということで、ダウンロード。この後もウルフルズ『ガッツだぜ』、GLAY『HOWEVER』、エレファントカシマシ『悲しみの果て』と、やはり12歳の少年らしくないリストになってしまいました。そして選ぶのに飽きてしまった甥っ子は「もうさ、まーたんがお薦めの曲入れてよ」と言ってサッカーのDVDを見始める始末。仕方がないので叔母さんはニューキッズ・オン・ザブロック、バックストリート・ボーイズ、リッキー・マーティンと自分の趣味を押しつけまくり。でもマイケル・ジャクソンやビートルズといった永遠の名曲も盛りだくさんにしてあげました。「すげー!120曲も入ってる!まーたん、ありがとう!」と笑顔の甥っ子に叔母さんはほっこり。別れ際「はい、これは入学祝いです。大切に使って下さいね」と封筒を渡すと、甥っ子は「ありがとうございます」ときちんと頭を下げて帰って行きました。ちなみに一緒に入れた手紙には「中学で彼女とか作らないように」と書いておきました。そんな中学の入学式も延期になってしまい、本当にこれから世界はどうなってしまうのでしょう。私が契約社員として働いている職場はテレワークが成立する仕事ではないので、緊急事態宣言以降もほとんどの人が出社しています。そもそもテレワークの「テレ」がテレビ電話の「テレ」だと思っていた私に、そんなことが出来るはずもない。さて、どうしたものかと考えていた時、事務所の社長から所属女優たちに「公人であることを自覚してください」というメッセージが送られてきました。収入がなくなるというのはやはり覚悟がいります。でもね、ここは20年以上お世話になっている社長を裏切っちゃいけないと思いました。職場の方も私の申し出を快諾してくださったので、しばらくは家にこもります。よーし、ほったらかしだった小説書くぞお。皆様も不要不急の外出を控えて、ぜひご自宅でお過ごし下さい。そして手洗いを忘れずに!

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website