検証│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#226

検証

2023-09-11 12:48:00

 私は17日間でトイレットペーパーを1ロール使います。長い日本芸能史において、こんなことを世間に公表した女優は私が初めてではないでしょうか。この唯一無比というあたりは少し評価して欲しいところではありますが、そもそもこんなこと誰も検証しないですよね。ではなぜ私が「トイレットペーパー1ロールを使うには、どれほどの期間を要するか」を調べたのかと言いますと、事の始まりはクローズド懸賞にありました。これまでも何度かここで書いたように(第213回『春はすぐそこ』参照)、私は懸賞が好きで、ちょくちょく応募しています。この日は仕事帰りにトイレットペーパーを買うため、薬局に立ち寄りました。フランス語の単語は一向に覚えられないのに、今現在どんな懸賞が行われているのかはばっちり頭に叩き込んでいる私。今回はクリネックスのトイレットペーパー含む税込1000円以上のお買い物が応募条件であります。コットンと洗剤と…、あと120円ばかし足りないから歯ブラシを買っておこう。幼い頃に公文で鍛えた暗算力をフル稼働させながら、商品を買い物かごに入れていきます。そしてお会計は1024円。よし、完璧。これは懸賞好きの人にしかわからないと思うのですが、懸賞に関するお買い物がうまくいくとすごく嬉しいんですよ。当選したわけでもないのに、戦いに勝った満足感があります。しかし家までの坂道をひーこら登っているその時でした。あれ?なんだろう、この心のざわつきは?そう思い、ふと自分の左手を見ると、そこにあったのは何とクリネックスではなくエリエールだったのです。「エリエーーーーーーーーーーール!」夜の住宅街に魂の叫びが響きます。なぜだ!ああ、神よ!あなたはなぜ、私にエリエールを与えたもう!(いや、買ったのお前だし)坂道の途中で膝から崩れ落ちそうになりました。帰宅後、しばらく放心状態の私でしたが「ダメよ、繭子!前向き、前向き!やる気、元気、いわき!」と自分を鼓舞し、ネットで検索したのは「トイレットペーパー 一人暮らしの消費量」でした。これによると女性の場合はシングルで平均2.6ロールとのこと。とはいえ、これはあくまでも平均値で生活環境を鑑みると個人差が大きいはず。ならば検証してみようではないかと思い至ったのです。検証といっても何ら特別なことをするわけではなく、新しいロールに変えた日にちをメモしただけでなんですけどね。そして得た結果が17日というものでした。女性の平均値よりだいぶ下回りますね。これは「節約していて偉いね」よりも、むしろ「ちゃんと拭いているの?」の方が強くて、微妙な気持ちになります。ついでに計算してみたところ、1年間に自宅で使うトイレットペーパーの長さの総計は約1770mでした。うーん、長いのか短いのかもわかりません。それでもこの検証の結果、もう1つトイレットペーパーを買っておいても良かろうという判断になりました。狭い家なので、なるべくストックは置かないようにしているんですけどね。ちなみに今は興味本位でキッチンペーパーの消費量を検証中です。
 と、ここまで読んで「西山繭子って奴はたいそう暇で、どうしようもないことをしているんだなあ」と思った方、まあ正解です。ただ、実際のところは多岐にわたって仕事をしているため、それほど暇ではありません。だからこそ、意識的に『暇』をつくるように心がけています。なるべく人と約束しないとか、言われるがままに引き受けないとか、そんなこと。そうしてつくった『暇』な時間に、どうしようもないことをするのが私は大好きなのです。前回のコラムにも書きましたが、自分で自分の機嫌をとるには、とにかく1人になるべし。そして自分の好きなことをする。その好きなことの1つに「家のことをやる」というのがあります。家事とは少し違うかな。例えば、バスタオルがへたってきたから新調しようとか、この本はもう読まないから図書館のリユース棚に置きに行こうとか、自転車の空気を入れようとか。これって、人からしたらどうしようもないことだと思うんですよね。でも、私はこういった生活のあれこれを1つずつ片づけていくことがとても好きなんです。たくさんのことが上手に片づけられた日は、日記に「とても良い日でした」と綴ってから健やかな眠りにつきます。そして翌朝は最高の目覚めでストレッチを始めます。こう書くと、なんだか丁寧なくらしをしている心穏やかな人みたいだなあ。でもね、安心してください。こんな良き日はそうそうありませんから。日記の7割は「くっそー!」「許さん!」「クズが!」といった罵詈雑言で埋められ、目が覚めたらメニエールでふらっふらという日も多いです。それでも生きていく。何とかなる。リラックス。ここ最近、吉田修一さんの『永遠と横道世之介』を読んでから、すこぶる楽観的な私です。文学の力は偉大ですなあ。写真は、気づいたら大変なことになっていたピローケースです。でも、おかげで「ギンガムチェックは白い部分の方が弱い」ということが検証できました。

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2023.9.11 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website