https: 自分の機嫌は自分でとる│西山繭子の「女子力って何ですか?」

全く新しい大人のwebマガジン

西山繭子の「女子力って何ですか?」

#225

自分の機嫌は自分でとる

2023-08-28 11:38:00

 昼休憩もろくすっぽとれずに朝から働き続け、へろへろで帰宅の途についた19時過ぎ。山手線車内は、私同様、疲れ切った人々で超満員でした。するとどこかから男性2人の怒鳴り合う声が聞こえてきました。この時間帯、車内のイライラはピークです。疲労困憊の通勤客に加えて、大きなスーツケースをいくつも引きずる外国人観光客。今となっては平和だったコロナ禍の空いていた山手線が懐かしいです。男性たちの怒鳴り合う声が、どんどん大きくなります。「お前の電車じゃないだろ!」「は?おめーの電車でもねえだろ!」まわりの人は皆、気まずそうに素知らぬ顔。ただでさえ雰囲気の悪い空気がますます淀んでいきます。ああ、声を大にして今すぐ言いたい。「ふたりともやめて!私の電車で喧嘩しないで!」って。常々、ヤバい人を制するには、さらに上回るヤバさを出すのが効果的だと思っているのですが、残念ながら私にはそれを行動にうつす勇気がありませんでした。西山繭子、まだまだ修行が足りません。彼らは「降りろよ、おめえ!」とわかりやすい展開で次の停車駅で降りて行きました。物価高に猛暑と、多くの人がストレスを抱える日々です。私も夏は毎年、会社の仕事が地獄のように忙しくて、残業前提のシフトに心身をすり減らす毎日。それに加えて父まわりのあれやこれやに「私は、お前らの使用人じゃねえんだよ!」と叫びたいほどで、マザー・テレサの異名をもつ私でさえも発狂寸前です。それでも怒ったところで何も良いことがないのはわかっているので、今私にできることは、とにかく『自分の機嫌は自分でとる』、これに徹するのみなのです。
 自分の機嫌をとるためには、1人で過ごす。これはもう絶対です。もともと人と会うことがほとんどない私ですが、ここ最近はさらに億劫になっています。なので、ひたすら1人。本当は旅行にでも行きたいところなのですが、8月は夏休みということもあり、どこも混んでいるし何しろ高い。沖縄の海で泳いで気分転換をしようかなと思い調べたところ、航空券とホテルがセットで2泊3日で43万円でした。ひと昔前だったらイビサ島でバカンスができる金額。さすがにこれは厳しいので、旅行は秋になるまでお預けです。ということで何をするかといえば、やはりここは映画であります。『ミッション・インポッシブル』『バービー』『君たちはどう生きるか』『アウシュビッツの生還者』『ふたりのマエストロ』お休みの日はだいたい映画館に足を運びます。これには映画を観るという目的以外に、もう1つ大きな喜びがあります。それは映画鑑賞を理由に携帯の電源をオフにできること。オフィス伊集院の仕事を手伝うようになってからというもの「電話が鳴る=面倒が増える」なので、映画を観ている時間だけでもそこから逃避できるのは嬉しい。ということは映画が長ければ長いほど…。先日観た『RRR』はそれにうってつけの作品でした。昨年10月に公開されてから行こうかどうか迷い続けて季節は夏に。それでもまだ上映館があるというのはすごいですね。映画を観る前、自分の機嫌をとるためにアイスクリーム屋に入りました。欲張った私はアイスが入ったクレープを頼んだのですが、そもそもクレープなんてここ10年食べたことがなく、いざ食べてみたら1個を食べきるのがなかなかツラくて、そうか、もうクレープを受けつけない身体になったのかと新たな自分を知ることができました。今後はマリオンクレープの前を通りかかっても平常心でいられます。平日の昼間だというのに映画館はほぼ満席。恐るべし『RRR』。3時間を超える大作は評判通りの面白さで、インド映画の底力をひしひしと感じました。観終わってからは当然のごとくカレーを食べに行ったのですが、隣の席には私と同じく鑑賞後の男性2人組が。「今日で何回目?」「16回目」思わずナンをちぎる手が止まってしまいました。16回ということは時間にして48時間、つまり彼は2日間ずっと『RRR』を観ているわけですよ。それからは彼の語る『RRR』論にずっと耳を傾けていました。ああインド、死ぬまでにもう一度訪れたいなあ。20年前に行った時は撮影のために気温2度のなか冷たいガンジス河で沐浴をして、心の中ではダチョウ倶楽部かよって思っていたのですが、真面目な番組だったので「心が浄化されるような感じがして、あまり寒さを感じませんでした」と大嘘をぶっこいたのを覚えています。沐浴後、濡れて重くなったサリーを引きずりながら川岸にあがると「ほらほら、こっちにおいで」とおじさんが焚火の近くに招き入れてくれました。まあ、何と親切なと感動しましたが、その数分後、おじさんにお金を請求されたのは言わずもがな。インドで自分の機嫌を自分でとるのは、かなりハードルが高そうですね。さあ、今日はこれから美容院。自分の機嫌をとるためにカットとカラーに加えてヘッドスパもお願いしました。日頃の疲れを癒したいと思います。

image2

2023.8.28 配信

最近のコラム

西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website