あたしチョキ組│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#024

あたしチョキ組

2015-04-13 10:46:00

 春ですねー。ぽかぽか陽気にまったく仕事をする気がしません。願わくば一生遊んで暮らしたい西山です。しかし自分にはそれを可能にする才能がないのはわかっているので、日々こつこつ粛々とやっていくしかないのです。でもなー、やっぱり遊びたいよなー、春だしなー。私にとっては『ぽかぽかしていて最高の季節』という春ですが、人によっては人生の大きな節目となる季節でもありますね。この時期、新入生、フレッシュマンの少し緊張した顔を街中で見かけます。真新しい制服やスーツが輝いていてまぶしいほどです。新しい学校に職場、友だちに同僚。今までの自分とは違う自分になれる絶好のチャンス。そんな気分を私も味わおうと、散歩中にとある国立大学の入学式に出くわしたのでふらりとキャンパスに入りました。サークルに勧誘されたらどうしようなんて、ドキドキしながら歩いていたのですが、むしろ保護者に近い年齢なので完全スルー。やるな、東大生。そんな私と違って新歓コンパや新入社員歓迎会などに参加される方は、ぜひ楽しんでくださいね。だって、これまで女子力がなかった人も、女子力があるふりができるチャンスなのですから!節目です!新しい自分にこにゃにゃちわ!

 私の記憶にある初めての節目といえば小学校の入学式。今と同じように繊細な私は小学生になるというプレッシャーに負けたのか、当日に高熱を出してしまいました。入学式だけでも出ようと言う母に引きずられ連れて行かれた入学式。校長先生の話も、上級生のお姉さんがつけてくれた胸の花飾りも、担任の手塚先生のどうしようもないギャクも高熱の私にはどうでも良くてただただ早く家に帰りたかった。そして入学式が終わって翌日から、私は3日間学校を休みました。もういきなりのロス!ロサンゼルス!これはかなり大きいですよ。3日後に小学校に行った私は自分の机がどこかもわからずに教室の後方に突っ立っていました。「おはようございまーす」と教室に入ってきた先生を見て「あれー?入学式の先生と違うなー。変わったのかなー」と思っていたのですが、それもそのはず、私がいたのは隣のクラス。みんなに笑われながら、すごすごと自分の教室に戻りました。私を出迎えてくれた手塚先生も「やばい子入ってきちゃったなあ」と思っていたかもしれません。しかし、その手塚先生のミスでさらに私は窮地に立たされるのです。それは下校時のこと。しばらくは集団下校ということで、家の方向によってそのグループがグー・チョキ・パーに別れていました。「西山さんはチョキ組です」と先生に言われて、そのチョキ組の列に並んだのですが、ふと横のグー組を見るとそこには姉の姿が。同じ家に暮らしているのに、なぜ……。私は前に並んでいた女の子に「ねえねえ、私のお姉ちゃんがグー組にいるんだけど」と話しかけると、彼女は「でもあなたチョキ組でしょ?」と言いました。私は「うん」と頷き、チョキ組のみんなと一緒に家から真逆の方向に歩き出しました。みんながそれぞれの家に帰っていき、最終的にぽつんと一人になった私。引率のおばさんが心配そうに「おうち、どこなの?」と訊きました。「スーパー三和の隣。お姉ちゃんはグー組にいた」と答える私におばさんびっくり。私はおばさんに手をひかれ再び学校に戻りました。すると校門の前には、待てど暮らせど帰って来ない娘を心配してやって来た母、そして手塚先生と校長先生の姿が。私が「あ!ママー!」と笑顔で手をふると、母はほっとした様子を見せたものの「何してんのよ!心配したんだから!」とお怒りモード。えー、私のせいじゃないのにー。こんな風に完全に出遅れたスタートでした。

 そして次の節目は中学校入学。完全に新しい環境でスタートがきれる。しかし、そのスタートを間違えた場合、怖ろしいことになります。なぜなら大学までずっと一緒なのだから。私は気合を入れて当時かけていた眼鏡をキュッキュと拭きました。当時の私はショートカットに黒ブチの眼鏡で風貌が完全にハリー・ポッターでした。そのハリー・ポッターが新しい学び舎で、このコラムでも何度か言及している女子力の欠片もない友人たちと出逢ったのです。あー、ここで完全に躓いたんだなー。彼女たちと出逢っていなかったら、今頃素敵ママとしてVERYに載っていたかもしれない。もしくは女子力が高すぎて、スタイルブックなんて書いちゃって、自由が丘あたりにシャレオツな店を出しちゃって、買い付けでパリです!みたいなね。これから先、新しい環境に身を投じる機会というのはそうそうないので、徐々にシフトチェンジをしていくしかありません。芸能界では「あれ?この人、いつのまにか文化人枠に入ってる」などということが多々あるので、そこを狙っていきます。今は肩書きが『女優・作家』になっているのですが、そのうち『アロマソムリエノマドクリエイティブセルフブランディングプロデューサー』とか名乗って、何やってんだかよくわかんないけど、朝の情報番組でコメンテーターをやっている私がいるかもしれません。写真は大きな節目だった芸能界デビューの頃。この時は、輝かしい未来を夢みていたなあ。今、その通りの人生を歩めて幸せです(棒読み)。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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