シンジラレナーイ
2015-06-22 10:07:00
平日の昼下がり、表参道で友人とランチ。ああ、女子力高し!友人が予約してくれたレストランはオーガニックとか五穀米とかうたっちゃって、もう女子力の極みみたいなお店。店内に入ると、大きな窓からは明るい陽射しがふりそそぎ「いらっしゃいませ」という店員さんの笑顔がもうオーガニック(使い方がわかっていない)。ざっと見回したところ9割が女性客で、みんなフレンチリネンとか好きそうな感じ。「あ、待ち合わせデス」と居心地の悪さに何だか声が小さくなってしまった私に、奥の席で友人が手を振っていました。最初は笑顔だった彼女でしたが、目の前に来た私を見て「アラフォーのリュックはハイキング以外禁止です」と厳しい口調で言いました。私が「いや、これはプラダだからセーフだ」と反論すると「全然アウト。しかもそれ、大学生の時に買ったやつでしょ?」とぴしゃり。大学時代からの友人である彼女、よく憶えてるなー。「いやー、自転車だったからさー。まだ使えるしさー」とぶつぶつ言い訳をする私。彼女の隣には水色のバーキンが鎮座していました。
もう何年高級ブランドのバッグを買っていないだろうか。たまーに天下の伊勢丹に行ったついでに(大パンティー祭りの時とかね)1階のバッグ売り場を覗いたりするのですが、そのたびに目ん玉が飛び出てしまいます。まい泉のカツサンドの箱が1個しか入らないようなポシェットが30万円とか、ヒルマン監督風に言えば「シンジラレナーイ」なのです。私が、一番ブランドものに興味をもっていたのは華の女子大生時代。常に誰かがプラダやグッチの新作を買っていたと記憶しています。その当時は、ブランドものでも大学生がバイトを頑張れば買える値段だったんですよね。しかし、そんな中で事件は起きました。20歳の私はCM出演料で生意気にもシャネルのバッグを買いました。真っ白いナイロン製の小さなトートバッグ。20歳やそこらの女が本当に生意気ですよね。実際、すげー生意気でしたけど。しかしそのバッグ、真っ白ですからね、やはり汚れてくるのです。せっかくのシャネルなのに、汚いのはヤダわーと、ある日、私はそのバッグをぽーんと洗濯機に放って洗剤を入れてスイッチオン!ゴトゴトと洗濯機はまわり、すすぎに脱水。ピーピーと終了を知らせる音が鳴って、洗濯機から取り出したバッグを見て私びっくり。汚れが落ちるどころかカビが生えた食パンのようになっている。どうやらバッグ内についていた黒い革のタグから色が染み出たっぽい。しかし、バカな私はとりあえず干してみる。燦々とふりそそぐ太陽の下に干してみる。結果、腐った食パンバッグはさらに黄色く日に焼けて、無残な姿になっただけでした。この時に私は思ったのです。「洗濯機ごときでダメになるなんて、高級ブランドもたいしたことないな」これを機にブランドバッグに対する興味は一気に失せてしまいました。数年前に母校の大学で新入生に向けて講演をしたことがあります。今の仕事の話や、大学時代をどんな風に過ごしたかを話しました。その中で私が「高級ブランドのバッグが欲しくなる気持ちはわかります。しかし20万、30万のバッグは高いわりには一生ものではありません。バーキン以外はすぐに使えなくなります」と言うと、彼女たちはふむふむと頷きました。講演後に『今日学んだこと』みたいなアンケートの半分以上に「バーキン以外は買っちゃいけない」と書いてありました。ちなみにその時の質疑応答で受けた質問は「竹野内豊ってすごい格好良いですか?」でした。答えはもちろんYESだ。
アラフォーになっても残念ながらバーキンを持っていない私、リュック以外の最近の主流はもっぱら布製のエコバッグです。一番よく持つのはNYのスーパー『ゼイバーズ』の大きなタイプ。荷物がたくさん入るのも良いし、何より洗濯機で洗えるのが良いですね!(重要)このバッグを初めて持ってお出かけした日、千代田線で同じものを持った女性がいたので思わず話しかけてしまいました。「お揃いですね!私は先週買ったんです!」女性は不審者を見るような目を私に向けて「あ……、私はネットで」と言いました。私、そのエコバッグがネットで売っていると知らなかったので「見知らぬ人に突然NYに行ったことを自慢する女」になってしまいました。でも数ドルのエコバッグに高い送料を払ってわざわざネットで買うって、ヒルマン監督風に言うとやっぱり「シンジラレナーイ」なのであります。うーん、しかしリュックにエコバッグ。女子力という観点からみるとよろしくないなあ。そうかと言って、先日、いい女風にクラッチバッグを小脇に抱えいたところ、母に「集金袋持ってるのかと思った」と言われてしまいました。写真は、私は女子力が高いと思っているけど、きっと誰も認めてくれないであろうてんとう虫のポシェットです。
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。
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