お稽古ごと│中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

Writer

中島さなえ

#005

お稽古ごと

2015-10-28 22:37:00

 幼少の頃から大人になった現在までまとわりついてくるもののひとつに、「お稽古ごと」がある。やっかいなことに、わたしはお稽古ごとが大好きなのだ。昔からよく『ケイコとマナブ』をめくりめくり、ページの端に折り目をつけていた。
 街でたまたま大道芸人をみかけたらすぐにジャグリングを習いたくなるし、カンフー映画を見た日には、「”さんかくこん”とやらをラクラク振れるようになったかっこええんちゃうかなあ」と思いをはせる。しかし、人の時間と金は限られている。そう次々にお稽古ごとなどできるものではない。しかも、お稽古ごとをめったやたら好む人の特徴として”飽きっぽい”という性質がセットでついてくる。もちろんわたしも例外ではない。
 今まで一度でも触れたことのある習い事を思いつく限りざっとあげてみると、ピアノ、バレエ、公文、そろばん教室、国語の通信教育、サックス教室、ボーカル教室、ペン習字、バイオリン、アコーディオン、エレキベース、陶芸、ジャズダンス、卓球教室、ボディマッサージ、シルバーアクセサリー教室、英会話……。
 この中で、よく身について今でも続けているものはたったふたつ、サックスと卓球だけだ。しかも卓球は中学校の三年間部活でやっていたものなので、すでに身についているものを復習しているだけだ。後は、一日体験レッスンで見切りをつけたものあるし、なんとなしやめてしまったものもある。ドロップアウトした理由も様々だ。バイオリンを習った時は、ギコギコと弓を弾きながらあまりの難しさに顔をしかめ、「これは英才教育で幼少の頃から弾きはじめないと手に負えないもの」と早々に判断。バレエを習っていた時は「からだが硬すぎる地獄」でリタイア。たいていが勢いと思い込みだけで見切り発車し、辛抱できない続かない身につかないで挫折となる。
 ただ、今後のお稽古ごとに関しては「今すぐこうなりたい」ではなく、老いてどういうスタイルの婆さまになるか、といったことを中心に考えている。たとえば、「人里離れた海辺の家で猫と犬に囲まれて揺り椅子に座り、アコーディオンを弾いている婆さまのわたし」だとか(渋い!)、「気心知れた近所の友人たちから予約を取り、週に二回自宅でマッサージをして生計を立てている婆さまのわたし」だとか(計画的!)。でもどうせこういった夢も一瞬で潰えてしまうのだろう。ゴッツせつない。
 もうたいがいにした方がいい。そう思いつつ、つい先日も街で見かけた「活弁教室生徒募集中」というポスターの前でハタと足をとめてしまったのだった。どんな婆さまになるつもりだ。

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中島さなえさんINFORMATION

作家。1978年、兵庫県宝塚市に作家・中島らもの長女として生まれる。2009年エッセイ集『かんぼつちゃんのきおく』、2010年初小説『いちにち8ミリの。』でデビュー。他に小説『ルシッド・ドリーム』『放課後にシスター』、エッセイ集『お変わり、もういっぱい!』がある。サックスプレイヤーとしてバンド活動もしている。
研究施設から逃げ出したうさぎをめぐる連作短編集『わるいうさぎ』が双葉社より、「いじめ」をテーマにした短編を収めた競作アンソロジー『「いじめ」をめぐる物語』が朝日新聞出版より発売中。

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