ライス・イズ・ビューティフル│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#121

ライス・イズ・ビューティフル

2019-04-22 16:21:00

 『女子力って何ですか?』平成最後の原稿です。次に書く時は、今和(いまわ)※前回コラム参照…ではなくて令和になっているのだなあ。しみじみ。そんな平成が終わろうとしているここ最近、素晴らしい出逢いがありました。そう言うと「どんな人?」というときめいた声が聞こえてきそうですが、今回の出逢いは人じゃありません。今回、私が出逢ったのは、それはそれは美味しい「お米」であります。
 私は無類の米好きです。「好きな食べ物は何ですか?」と訊かれれば即答で「米」と答えます。「オーガニックのグラノーラ」とか「ケールのサラダ」とか、女子力が高そうなものにはまったく興味がありません。職場の忘年会の時も、ビンゴの景品係になった子に「西山さんだったら、何が欲しいですか?」と訊かれ「お米券」と即答。彼女はお米券を用意してくれたのですが、ビンゴですからね、そうは問屋が卸しません。私が欲しかったお米券は社長の手に。しかし、あまりにも私が悔しがっていたので大人な社長は帰り際に「西山さん、いつもありがとう」とお米券をくれました。普通はここで「え!いいんですか?」となるのでしょうが、社会性ゼロの私は「わーい!」と速攻で鞄に入れて「良いお年をー」と笑顔で帰りました。でもね、私はそれぐらい米が好きなのですよ。もうね、三度の飯より米が好き。マンチェスターの学生寮にいた時のことです。私のフラットメイトはイタリア人、フランス人、ロシア人、ドイツ人、韓国人と多種多様でありました。キッチンは共同だったので、食事時になるとみんながそこに集まります。とはいえ、私以外はみんな20代の若者だったので空腹さえ満たされればレトルト食品でOKといった具合で、きちんと食事を作っているのはジャパニーズオバサンだけでした。そこでみんなが驚いていたのは、私の米の消費量。フラットメイトの欧米人たちは、米を食べることなんて月1回あるかどうかという生活。そんな彼らからすると、夜に米を炊き、朝にも米を食べ、昼にはおにぎりを持って学校へ行く私が随分と奇異にうつったようで、最終的には「Because Mayuko always eats rice!(なぜなら繭子はいつも米を食べているから)」という合言葉までできました。例えば「繭子がテストで満点をとったって!」と誰かが言えば、他の人たちが「なぜなら繭子はいつも米を食べているから!」と声を揃えます。その他にも「繭子が酔っぱらって踊っているよ!」「なぜなら繭子はいつも米を食べているから!」「繭子がクラスメイトのアフマドにぶちキレたって!」「なぜなら繭子はいつも米を食べているから!」とまあ、こんな感じ。そんな中、私に胸をときめかせていたフランス人青年オスカルは「僕も米が大好きなんだ!さっきもスーパーで買ってきたところだよ!」と何とか歩み寄ろうと必死。可愛い奴め。しかし彼が手にしていたのは格安スーパーALDIの得体の知れない米。「これは米ではなくてプラスチックだわ」と私に一蹴されて、オスカルはしょんぼりなのでありました。ちなみに先日私が「6月にパリに行くよ」と彼にメールをしたところ「僕のプリンセスがパリに!ああ、早く会いたいよ!」という返事が返ってきました。14歳も年上のおばはんをプリンセスと言ってくれるあたり、フランスというのは良い国ですね。
 前置きが長くなりましたが、それほどまでに米好きの私が出逢って感動したのが『山間米』というお米。高知県四万十川中流域にある西土佐地区で作られているもので、ここ出身の友人が送ってくれました。私は普段土鍋でお米を炊いています。これは意識高い系云々ではなく、炊飯器を置く場所がないからという物理的理由です。でも結果的に炊飯器よりも早いし、美味しいしで土鍋最高!なのであります。まあ私の姉家族のように男児が3人いて、年間の米消費量が300kg越えとなると土鍋は辛いかもしれません。届いた山間米を初めて炊く時、米好きの私としては「どう食べるのがベストか?」を考えました。いつもは米を美味しく食べるためのおかずを作るのですが、この時に私が用意したのは、お味噌汁と豆皿に並べたごはんのお供。ちりめん山椒、明太子、しそのニンニク醤油漬け、そして塩。美味しいお米には、これで十分でありましょう。吸水させたお米を強火で7分、弱火で7分、蒸らして10分。待っている間は、米をさらに美味しく食べるための筋トレです。頑張れ私、夏のバレエコンクールではキトリを踊るんだ。しかしプランクで体幹を鍛えながらも頭の中は艶々とひかり輝く真っ白い米でいっぱい。そして台所にキッチンタイマーが鳴り響き、わくわくしながら私は土鍋のフタを開けました。ほわっとあたたかい湯気が私の顔を包み込みます。ああ、幸せ。炊きたてのごはんの香りはいつだって幸せの香りです。そして、この山間米の美味しいこと!もうね、あっという間に一合ぺろりと平らげてしまいました。本当は夏にキトリを踊るために少し体重を落とさなきゃと思っていたのですが、やめます。体重を支えるべく足首を鍛える方に重点をおきます。いや、しかしこんなに美味しいお米に出逢わせてくれた友人には本当に感謝なのであります。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website