松茸ざんまい
2019-10-17 11:36:00
今回の台風19号で被害に遭われた方に心よりお見舞い申し上げます。私はといえば、ベランダの物を家の中にしまったり、カセットボンベや水を買ったりと最低限の備えをして、台風が過ぎ去るのをじっと家で待っていました。築20年以上のマンションは、かつてない暴風雨に時折ミシミシと音を立てていて怖かったです。こういう時、若い私でさえ、もう1回言う。若い私でさえ心細いのですから、一人暮らしのお年寄りなんて尚更だよなと思いました。しかし、もうお年寄りに片足を突っ込んでいる母からの電話には「無駄に充電を使いたくないから、くだらないことで電話して来ないで」と言ってしまう非道な娘なのであります。その昔、姉に「もしママがまーたんのことを殺しても、これまでのまーたんの非道を陪審員が聞いたら全員一致で無罪な上に、死んだまーたんが有罪になる」とまで言われたことがあります。そこまで?と思いつつも、確かに反省しなくてはいけない節があるのは事実。だからと言うわけではありませんが、最近は少しでも母に楽しい時間を過ごして欲しいなと思っています。先日も2人で『松茸ざんまいミステリー ○○牛と松茸尽くしの昼食 箱入り「松茸5本」お持ち帰り&大粒ブドウ狩り食べ放題』というやたらめったら長い名前のバスツアーに参加してまいりました。同名のバスツアーに参加予定の方は、ネタバレになりますのでご注意下さい。
10月上旬の朝、バスはツアー客を乗せて一路目的地へと出発しました。この日は満席ということでしたが、まず驚いたのはその客層。以前、茶摘み&海鮮食べ放題ツアーに参加した時は9割が若い女性グループだったのですが、今回はほとんどが老夫婦。隣に座る母に小声で「これは天国行きのバスなのだろうか?」と問うたところ「あなたが乗っているから天国には行かない」と朝からやんわりと地獄行を示唆されてしまいました。とは言え、今日この日をとても楽しみにしていた母はバスの中で食べる朝ごはんを作ってきてくれました。私と姉を抱え、仕事、家事、子育てを全て一人でしなくてはいけなかった母ですが、食事を疎かにすることは絶対にありませんでした。久々に食べる母の卵焼きの美味しさに幸せをかみしめていたら、そこかしこから聞こえるプシュッというプルトップを開ける音。車内を見回せば、朝の8時だというのに缶ビールやチューハイを開けているじーさんばーさんたち。さらには座席前には持参のS字フックをとりつけ、おつまみを食べやすくするという技まで披露。プロやね。今回の旅は事前に行き先を知らされないミステリーツアー。若い女性添乗員さんがバスマイクを握ります。「あと30分ほどで最初の降車地です。さあ、どこですかねえ?ヒントを言いますと蘭で有名でござい…」「藤岡!」かぶぜぎみで答えるじーさん。「あ…あ、せ、正解です。よくご存じで」「前に行ったから」空気を読むなんてそんな野暮なことはしません。「これから、その藤岡にございます道の駅に参ります。三文字で〇〇〇藤岡、どなたかご存知の方いらっしゃいますか?楽しくなるような言葉です」「わくわく藤岡!」「三文字です」「るんるん藤岡!」「三文字です」何だかもう『ご長寿早押しクイズ』みたいになってきたよ。正解は『ららん藤岡』でありました。この道の駅で私と母は野菜や干し椎茸を購入。本当に女子力が高い女は道の駅でスイーツなんて買いません。新鮮安価な農産物バンザイ!なのであります。そしてお次はブトウ狩り。始める前にわりかし強めの口調で果樹園の方からの説明あったのですが、要は「持って帰るな。この場で食べろ。食べられる分しか獲るな」という意のことでありまして、せっかくのバスツアーなんだからもっと優しく言ってくれても良いのになあと思いました。ただ、いただいた藤稔という品種はとっても美味しかったです。そのあとはお食事処で松茸三昧のお昼を堪能!率直な感想を述べますと、まあこんなものかと。そもそも考えてみれば私自身、松茸の味なんてわかっちゃいないから食べたところで、こんなものかですよね。もちろん綺麗に完食しましたけどね。ちなみに〇〇牛の答えは上州牛でした。そして再びバスに乗り、お次は水澤歓世音へ。ここには100円払えば誰でも鳴らせる大きな鐘があります。添乗員さんいわく鳴らすと金運が上がるということで、人々が列を成しておりました。欲の数だけ境内に鐘が鳴り響くという何ともシュールな光景を眺めていると「ちょっとママも並んでくるわ」と言われ、姉には「鐘つき強欲婆さん」というタイトルで動画を送りました。そのあとは水沢うどんのお買い物スポットへ行き、最後は前橋にある臨江閣を見学。盛りだくさんのツアーに帰路はほとんどの客がぐったりとした様子で、車内は朝とはうって変わっての静けさ。何人か死んでいるのではと心配になったほどです。私もその日は帰宅後、夕飯も食べずに就寝しました。さあ、次はどんなバスツアーに行こうかしらん。
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website