セ・ル・チャンポン│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#158

セ・ル・チャンポン

2020-11-09 11:10:00

 久しぶりにちゃんぽんを食べようと『リンガーハット』に入りました。平日のお昼時、店内は学生、サラリーマンで溢れ返っております。入り口で手を消毒してから空いていたカウンターに座り、メニューを開きました。うーん、皿うどんも魅力的。でも今日はちゃんぽんと決めていたので、そちらをオーダー。一応、ダイエット継続中なので我慢してちゃんぽんは女子力高めな小さいサイズを頼みました。でも我慢できずに一緒に餃子3個も頼みました。ごはんを頼まなかっただけ偉いということにしましょう。待っている間は、ぼんやりと店内に貼ってあるポスターを眺めていました。材料を全て国産化したリンガーハットさん。以前、CMをやらせていただいた餃子の王将もそうでしたが、どこの企業も頑張っているんだなあ。大切なことだよなあ。私もしっかりしないとなあ。そのためには今のこの生活を続けていて良いのだろうか。それで私は幸せなのだろうか。そもそも幸せってなに?などとリンガーハットを通して哲学的思考にふけっていると、店員のお姉さんが「お待たせシマシター。ちゃんぽんにナリマース」と私の前に美味しそうなちゃんぽんを運んできました。それを見た私は「あの、小さいのを頼んだんですけど…」と戸惑いながら言いました。すると彼女は「ハイ。コレ、小さいちゃんぽんデス。餃子、もうショウショお待ちクダサーイ」と笑顔で去って行ったのです。え?これで、小さいの?その瞬間、私は自分の老いを感じざるを得ませんでした。昔であれば、普通サイズに餃子とごはんをつけてもペロリでした。しかし今では小さいサイズでも完食できるかどうかわからない。老いで身体が縮んで小さいサイズが大きく見えるという視覚効果も影響していそう。なんとも切ない気持ちになりながら、ちゃんぽんをすすりました。でも、やはり美味しい。企業努力、万歳。もちろんというか案の定、何の問題もなく完食しましたが、この先、歳を重ねるごとに食欲が減退していくのであれば、日々の食事にはさらにこだわっていこうと心に誓いました。そして膨れたおなかをさすりながら、この日はフランス語の授業へと向かったのであります。
 1月から通い始めたフランス語の学校では、コロナ禍で数ヵ月のお休みがあったものの、入門科クラス、初級準備クラス、初級クラスと着実にステップアップしています。今現在受講している初級クラスは10月に始まったのですが、3時間の授業は全てフランス語で行われます。「僕は絶対に襟がついたシャツしか着ない」と言いきったフランス人の先生と共に学ぶクラスメイトは、私を含めて5名。内訳は、マダム、マダム、マダム、マダム、イケメン…。ん?イケメン?そうなのです。驚くことに、今のクラスには大学生のY君というハンサムな青年がいるのです。クラス初日、早めに学校へと向かったのですが教室に行くとそこにはすでにY君の姿が。平日の昼間の語学学校というのは、基本的におばさんの巣窟なので、くるりとこちらをふり返り「こんにちは」と笑顔で挨拶をしてくれたY君におばさんは「あんれまあ、たまげた。あたす、教室間違いたっけかあ?」と思わずきょろきょろ。しかしY君は紛れもなくクラスメイトでありました。同じクラスで学んでいる限り、そこに老いも若きもありませんが、以前、授業内でフランス人の歌手を挙げよと言われ、おばさんたち全員がエディット・ピアフ一択だった一方、Y君の口からはストロマエというヒップホップアーティストの名前が出ました。頬に手をあて「誰それ?知らないわあ~」と首を傾げるおばさん一同。そのあたりはさすがに若いなーと思いました。ちなみにストロマエはフランス語で歌っていますが、ベルギー人であります。そのストロマエはじめ、ヒアリングも兼ねてフランス語の曲やラジオをたくさん聴くようにしてはいるのですが、これがね、本当にいつまで経ってもさっぱりわからないのですよ。フランス語特有の鼻母音だったり、「ふぁ」とか「しょん」とか「どぅぴゅ」とか、リエゾンとかアンシェヌマンとか、私にはすこぶる難しい。授業中は先生に発音を注意されっぱなしなのです。語学の習得において、自分が発音できない音は聞き取れないと言います。なので地道にひたすら練習の日々。その方法は、グーグル翻訳に音声入力するというもので、例えば「ボンジュール」と言って、きちんと「Bonjour」と認識されればOK。しかしこれが意外と難しく「A votre avis?(あなたの意見は?)」と何度言っても、グーグル翻訳が「アブダビ?」と返してくるので、そのたびに絶望します。でも私はあきらめません。このコロナ禍がおさまって、いつかフランスに行けるようになるその日まで、こつこつ勉強するのです。写真は復習用のノート、そして家にあった唯一の下敷きです。若かりし頃の荒木大輔の眼差しが、私のやる気をさらに引き起こしてくれます。

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website