節分を楽しむ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#164

節分を楽しむ

2021-02-04 21:53:00

 季節の行事を大切にするようになったのは女子力が高くなったからなのか、はたまた加齢のせいなのか。たぶん後者であろうと思いつつも、節分を全力で満喫した西山繭子です。今年は124年ぶりに2月2日の節分でありました。1897年以来かあ…、と考えたところでピンときません。「今年はベートーベン生誕250年です」と言われて「そうか。生きてたら250歳か」と考えてしまう無意味さに似ています。個人的には2日でも3日でもどちらでも大丈夫。楽しめれば大丈夫。ということで、この日はまず東京都美術館に行きました。いきなり節分とはまったく関係ないのですが、知人の作品が展示されている『東京藝術大学卒業・修了作品展』の最終日ということで朝いちばんで上野に足を運んだのであります。この作品展、行く前からよくわからないであろうことは予想していましたが、そのわからなさは予想のはるか上をいき、むしろ清々しくもありました。さすが東京藝大。歳が半分近い知人の彫刻を前に「いやー、立派だねー」という、どうしようもない感想しか言えませんでした。それでも久しぶりに触れる芸術の世界を大満喫。あまりにも満喫しすぎて、コインロッカーの100円を取り忘れました。悔しくて今も眠れません。そしてその足で向かったのは根津神社。43年間東京で暮らしている私ですが、訪れるのは今回が初めて。前日に調べたところ、近くに美味しいたいやき屋があるということでまずはそちらへ。餡子がびっしり入った根津のたいやき。「はふー!おいひいー!」焼きたてってこんなに美味しいのね。行儀が悪いと思いつつもてくてくはふはふ歩き食べ。あら?もう神社だわ。入る前に食べてしまわねば。「はふっ、あぢっ。あぢっ」慌てて食べた結果、口の中を火傷しました。熱々の餡子は凶器です。皆さんもお気をつけください。痛みに顔をしかめながらも一礼して赤い鳥居をくぐれば、そこには1900年の歴史を誇る厳かな世界が広がっています。まずは拝殿で参拝をしてから絵馬を購入。この根津神社には神使いの白蛇が住みついたといわれる『願掛けカヤの木』があります。私はいつも詣での際に、神様の手前、自分を繕う傾向にあります。欲深き人間だと思われぬよう「家族が健康でありますように。もうそれだけでじゅうぶんです」などと優等生ぶった願いを心に唱えるのです。しかし、この時の私は違いました。村山由佳さんの『風よあらしよ』を読んでいたからかもしれません。己の欲望に忠実でありたい。私は、伊藤野枝が平塚雷鳥にあてた手紙のように、熱意を持って絵馬を書きました。心の裡を全てさらけ出しました。授与所の片隅で黙々と絵馬に筆をはしらせはしらせ、いつまでたっても一向に書き終わらないおばさんを神職はどう思ったことでしょう。出来上がった絵馬には、隙間なく私の願いがびっしり。絵馬をあと5個ぐらい買わなきゃいけないレベルです。それをカヤの木のまわりに結びつけました。神様、白蛇様、どうぞよろしくお願いいたします。にんにん。そして根津神社をあとにした私はフランス語の学校へ。校内のカフェの一角で、まずは南南東を確認。そしてリュックから持参した恵方巻を取り出し、両手で包み込むように持ちました。だまって願いごとをしながら一気に食べる。これが恵方巻の食べ方の流儀です。私は南南東を向きながら真剣な面持ちで恵方巻を食べました。もぐもぐもぐもぐ。願いごとを唱えながら、もぐもぐもぐもぐ。すると、その時です。「ボンジュール、マユコ!サバ?」食べ終わるまであと少し。私は聞こえないふりをしました。しかしフランス人の先生に恵方巻の流儀がわかるはずもなく「サバ?マユコ!サバ?」と私の前に回り込んできました。「オオ!スシ?」違う、恵方巻だ。「ビアン?」ああ、もうダメだ「…うぃ…とれびあん…」2021年の恵方巻は失敗に終わりました。しかも、その後の授業で「じゃどー、すし(寿司が大好き)」と言ってしまうあたり、私って骨の髄まで日本人だなあ思います。しかし、ここで気を落としていても仕方がない。まだ節分のイベントは残っています。帰宅後は窓と玄関を全開にして一人で「鬼は外!福は内!」と小声で豆まき。そして締めくくりのイベントは0時ちょうどに部屋の壁に穴八幡宮の一陽来復御守を貼ること。これまでもこの御守の存在は知っていましたが、自分の家に貼るのは初めて。0時ちょうどにするならば、ここは時報を聞きながらでしょということで、ガラケーをピッポッパッ。すると液晶には緊急の文字。え!?どういうこと!?繋がる前に慌てて切りました。突然のことに心臓はばくばく。時計を見ればもう0時。慌てふためきながら何とか御守を貼りつけました。あとからわかったのですが、この時私が押した番号は118。これは海での事件・事故の緊急通報用電話番号で海上保安庁に繋がります。節分の夜に、危うく海もない渋谷区から通報してしまうところでした。熱々の餡子同様、皆さんもお気をつけください。それにしても、ここまでしっかりと節分を執り行ったのですから、今年こそ西山繭子に春が来るのは間違いないでしょう。

image2

2021.2.8 配信

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website