コンプライアンスとは│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#173

コンプライアンスとは

2021-06-25 13:52:00

 「お会計994円になります」その言葉に狼狽する私。ああ、何たる痛恨のミス!6円足りないではないか!私が職場の次に多く足を運ぶスーパーオオゼキは、海外オンラインツアーか商品券が当たるキャンペーンの真っ只中。これは、対象商品を含む合計1000円以上のレシートを1口として応募ができるもので、普段は3000円以上で1口という一人暮らしの買い物には厳しい条件が多いのですが、今回は私にも応募がしやすくて嬉しい限り。それなのに!せっかく対象商品であるサントリーのノンアルビールも入れたというのに!ああ、あと6円!何でもいいからもう1品、カゴの中に放り込みたい!しかし私の後ろにはレジ待ちの列が。平日の午前中だというのに、スーパーオオゼキはいつだって混んでいるのです。さすがオオゼキ。以前はレジ横にガムやらお菓子やらが置いてある棚がありましたが、2月の大改装以降になくなってしまい、もう1品をカゴに入れるためにはレジを離れなければいけません。そんなことをしたら後ろで待っている人たちから大ブーイングが起こるでしょう。1992年夏、甲子園球場で5打席連続敬遠をされた星稜高校3年生の松井秀喜。対戦相手である明徳義塾高校に対して、アルプススタンドからは怒号が飛びました。「勝負しろ!」「帰れ!」それでも監督の指示に従わなければいけなかったピッチャー河野和洋17歳。ああ、私だったら耐えられない。私は、心の中で涙を流しながら「カードで払います」とカードリーダーにクレジットカードを差し込みました。サインいらずでまあ便利。でも悔しい。悔しい。あとたった6円だったのに。西山繭子43歳、6円に泣いた梅雨であります。
 と、こんな地味な生活を送っている私ですが6、7月はドラマの撮影もちらほらと入っており、少々ばたついております。今、この原稿も〆切の4日前に書いています。偉いね、私。いや、偉いというかこれまで幾度も「あの時に書いておけば良かった~」という夏休みが終わる前の小学生状態に陥っているので、少し学んだということです。そうそう、学びといえば先日、会社でコンプライアンス研修なるものに参加しました。まるで立派な社会人みたいです。昨今、巷に氾濫している横文字言葉。エビデンス、ワーケーション、コンサルタント、グレコローマン。どれも何となく意味はわかっているけれど「ああ、サステ…ニャニャニャーね」とお茶を濁すことが多いのも事実。というわけで、デキる女としての女子力を上げるためにも今回はしっかりと勉強しようではないかと研修に臨みました。まずは、コンプライアンスとはなんぞや?日本語で言うところの法令遵守で、法律や倫理観を守りながら、公正・公平に業務を遂行することだそうです。ふむふむ。「部長、この業界実績No1という宣伝文句は明らかにコンプライアンス違反ですよ!」と声高らかに訴える若者の前で「そんな大げさなものじゃないだろー。まったくもう若い奴らときたら。社会ってものがわかってないねえ。あ、キョウコちゃん、お茶入れてくれる?あれ?髪の毛切ったの?彼氏でもできたのかなー?なんちゃって」と言っているおじさん。これは明らかにコンプライアンスに反します。しかし未だ日常的に繰り返されていることでありましょう。では、自分がきちんと守れているかと問われれば、もう私の人生、コンプライアンス違反だらけだなというのが率直な感想です。最近だって、20代の女の子に普通に「彼氏いるの?」とか訊いちゃったし、30代独身男性に「お休みの日、何やってるの?」と尋ねたあげく「ずっと家にいますね」と答えれば「あ、じゃあ今度遊びに行くよ。家の中でくさや焼いていい?」と言ってみたり、50代の女性に「正直なところ、キミエホワイトって効くんですかね?」と相談を持ちかけてみたり、もうこれはいつ訴訟を起こされてもおかしくないレベルです。気をつけなくてはいけません。今回の研修は企業内でのことを例にあげたものでしたが、私の場合は執筆する上でも注意を払わなくてはいけません。ああ、でもこれってすごく難しい。魅力的なコラムにするためには、時に大袈裟な表現を使うことがあります。これが偽装にあたると言われたら、もう何も書けなくなってしまう。さて、どうしたものかしら。週間文春の『悩むが花』で相談してみようかしら。いやいや、ものすごく叱られそうだわね。やはり物書きは、孤独に闘っていくしかないのです。写真はその孤独の大先輩である父に送ったお花です。父の日にお花ってピンとこなかったのですが「人から花をもらったのは何年ぶりのことだろう。ありがとう」ととても喜んでくれました。良かった、良かった。父にとって良き娘でいるためにも、給料日前で当初の予定よりも小さなお花になったことは黙っておこうと思います。

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2021.6.28 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website