久々のテスト│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#175

久々のテスト

2021-07-26 12:19:00

 テレビをつければ、朝から晩までどこもかしもこもオリンピック、オリンピック、オリンピック。コロナの危機的な感染再拡大も、開会直前までに報道していた関係者のごたごたも、臭い物に蓋とばかりに「金メダルです!」「快挙です!」「やりました、ニッポン!」と浮かれモードです。その際に、必ずといっていいほど「しかし、ここまでの道は平坦ではありませんでした」という言葉が続くのですが、平坦な道を歩んで金メダルをとれるはずないだろうって毎回思います。いやしかし、この状況下で競技に挑んでいるアスリートの皆さんの精神力は本当にすごい。蒸し暑い東京の夜空の下、驚くほど長くてつまらない演説を聞かされてもブーイングの一つも出ないのだから立派なものです。連日の猛暑で台所に立ちたくなくて、鯖缶ばかり食べている私も少しは見習わなくてはいけません。しかし鯖缶は栄養価も高く、まさに「Ça va bien!(サバ、ビアン)」なのでございます。あら、私ったら自然とフランス語が出てしまったわ。オリンピックの開会式でもフランス語のアナウンスに耳を傾けていると、わかる言葉がちらほらとありました。フランス語の語学学校に通い始めて約1年半。途中、コロナ禍によってお休みの期間もありましたが、週1回の授業を休むことなく真面目に頑張ってきました。そして入門科、初級準備、初級と亀の歩みではありますが、着実に階段をのぼってきて、先日、初めての学期末テストに挑みました。テストの1ヵ月ほど前から先生に「テストはだいたいみんな酷いことになるので、ちゃんと勉強してください」的なことをフランス語で言われていたので、合間を見つけてはせっせと単語帳とにらめっこ。もちろん語学学校ですから、点数が悪かったら落第なんてことはないのですが、せっかくだったら良い点数をとりたい。そして何よりも、初級クラスになってからのこの1年間、懇切丁寧に教えてくださったS先生をがっかりさせたくない。それをクラスメイトのマダムに話すと「繭子さんって真面目なのね」と驚かれました。いや、真面目というか、人に良く思われたいという私の弱さでもあるんですけどね。今回のテストは書き取り、リスニング、文法、作文の4種類。口頭試問がないぶん少し救われました。なぜなら私は、すこぶる発音が悪いのです。第158回『セ・ル・チャンポン』でも書きましたが、いまだにアブダビ地獄から抜けられません。そして絶望的なほどに「シ」や「ス」の音が苦手!「Monsieur(ムッシュ・おじさん)」「Chaussure(ショスュール・靴)」「Attention(アタンシオン・注意)」発音記号でいうところの『s』が入るものは必ずといっていいほど、注意されます。何度か言い直してOKをもらうのですが、いまだに何が正しい音なのよくわかりません。先生も私が苦手なのを知っているものだから、一度なんて「Je vais à Shibuya.(私は渋谷に行きます)」と言ったところ「ノン。シブヤ」と渋谷の発音まで直されて、さすがにS先生も「あ、ウソウソ。シブヤは大丈夫」と苦笑いをしていました。学期末テストは2時間の長丁場。まずは書き取りからスタートです。これは先生が読み上げた文章を、一字一句正確に文字に起こしていくのですが、S先生は私たちに点数をとらせるためにものすごくゆっくり、はっきり、そしてアクセント記号がつく音をわかりやすく大きな声で読み上げます。私たち以上にS先生も必死。そりゃ教えている身としては、生徒の出来不出来は責任問題だもんなあ。その後のリスニングは選択式で、文法は穴埋め問題。複合過去と半過去のややこしさに頭がパンクしそう。できれば未来だけを見つめて生きていたい。そして最後が作文。先生はテスト前に「他の問題は答えが1つしかないから〇か×だけど、作文は違う。だから出来ない人はここで頑張って点数をとるんだ!」と言っていました。しかしこれが私にとってはまた厄介で、職業柄、文章を書くならば絶対に良いものにしたいという想いがあるのです。だから、とにかく時間がかかる!今回もテスト終了時間ぎりぎりまで推敲に推敲を重ねて、何とか書き終えました。ふひー、頑張った、私。先生は「50点以上だったら合格」と言っていたので、せめて合格だと良いなと思っていたのですが、結果はなんと85.5点。先生の優しき部分点のおかげでフィギュアスケートみたいな点数になりました。テストで小数点って初めてです。でも、これで心置きなく次のステップへと進めます。私は意気込んで、夏期講習で受けたいクラスの先生の面接に挑みました。15分間のフランス語での面接では、何とか意思疎通はできるものの「仕事のスケジュール的に金曜日の方が都合が良いです」と伝えたいところ、私の語学力では「J’aime le vendredi.(私は金曜日が好きです)」とOLのようなことを言うのがやっと。一応、先生からはそのクラスで勉強をする許可をいただきましたが、だいぶ苦労しそうです。写真は今回いただいた修了証です。何だかすごくかっこいいので、これを持ってフランス語圏の国に行くと、大抵の企業には就職できるんじゃないかなと思います。

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2021.7.26 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website