ワクチン1回目│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#177

ワクチン1回目

2021-08-23 14:17:00

 1回目のワクチン接種が終わりました。当初、かかりつけの病院で予約をとっていたために9月初旬の予定だったのですが、この感染拡大を鑑みて大規模接種会場に切り替えました。1回目の接種後に筋肉痛以外の副作用があることは稀なようですが、何かあった時のために前日のうちに買い物、掃除、洗濯を済ませておきました。前回のコラムでも書きましたが生き延びるためには準備が大切であります。私が予約したのは平日朝いちばんの回でした。しかしさすが大規模接種会場、ものすごい人、人、人。床に貼られたテープに沿ってじぐざぐと進んでいきますが、ソーシャルディスタンスなんてあったものじゃありません。友人同士、はたまた家族で予約をとった人たちは大声でお喋りに華を咲かせています。ディズニーランドのアトラクションの列かと思いました。この様子を見ていると、ワクチン接種会場で感染している人もいるのではないかと思います。もちろんそれは一部で、ほとんどの人は黙って列に並んでいます。無表情で、前の人が進めばゆらりゆらりと前に進んで行きます。みなが同じ方向に、同じ目的で、何の疑いもなく。この状況に、ふと私は自分が「選択をしていない」かのような錯覚に陥りました。もちろんワクチン接種は強制ではありません。それでも世論では受けるのが当たり前という風潮で、それは働いている職場でも然り。「ワクチンを受けない人はもうウィルスそのものです!」という言葉を耳にした時、怖いことを言う人だなと思いました。そういう人たちは、ワクチンを打たない人間が罹患したらそれは自業自得だという冷ややかに言います。ワクチンを受けるのが当たり前。世界中で推奨されているのだから当たり前。みんながそうするのだから当たり前。ああ、戦争ってこんな感じで進んでいくのだろうなあ。ずらりと一列に並んで、ひたすら注射針にワクチンを詰める若者たちが、まるで爆弾に火薬を充填する学徒に見えました。終戦記念日が近かったこともあり戦争関連のドキュメンタリーをたくさん目にしたことも影響していたのでしょうね。だから普段は注射なんて怖くないのに、なんだかドキドキしてしまいました。しかし注射を打ってくれた若いお嬢さんは、こちらの緊張をとりのぞくかのように優しく丁寧に接してくれてあっという間に終了。接種後は金髪のお兄ちゃんに案内された席に座って15分間待機をしたのですが、会場を見渡しながら、このワクチン接種で少なからず雇用も生まれているのだなあなどとぼんやり考えていました。あとで調べたところ時給は1350円。めちゃめちゃ良いではないか。私が初めてアルバイトをしたスーパーのレジの時給は780円でした。27年も前の話です。時間になり、出口で看護師さんから「大丈夫ですか?ご気分が優れないとかありませんか?」と確認をされ、本当は激しく便意をもよおしていたのですが、ワクチンとは関係なさそうだったので黙っておきました。1回目に受けた人からは筋肉痛が酷い、腕が上がらないといった事例を聞いていたのですが、正直「まったくもう。みんな大袈裟なのよ」と思っていました。がしかし、本当に痛かった!数時間後から痛み始め、翌日は着替えさえも困難な状況に陥りました。同じく最近ワクチンを打った姉は、何度聞かせても子どもたちが無意識に「ねえ、ママ」とトントンと肩を叩いてきてしまうので「こっちが痛いほうです」とワクチンを打った腕に目印として手拭いを巻いていたそうです。負傷兵のようですね。ああ、母って大変。その母親に少しでも時間をと思い、先日子どもたちを映画に連れて行きました。毎年の夏休み、彼らは『まーたんと行く映画withポップコーン』を楽しみにしていてくれていたのですが、何と今年は「俺はいいや」と長男がパス!叔母さん、大ショック!中学2年生男子、思春期真っ盛りであります。いつの日か保育園で熱を出し、迎えに行きおぶって帰った男の子がいつの間にか大人の階段をのぼっています。私の可愛い可愛い初めての甥っ子。そして、私の喪主。葬式の際はどうぞよろしくお願いいたします。後ろ髪をひかれる思いではありましたが、しつこくして思春期の喪主の気分を損ねては大変、と小学4年生、2年生の次男と三男の3人で行くこととなりました。これまでは私の意向で『ミニオンズ』『ペット』『ボスベイビー』『トイストーリー』とハリウッド映画を観ていたのですが、今回は『クレヨンしんちゃん』を観に行くことに。鑑賞前は、まあ子どもたちが楽しめればいいや、涼しい映画館でお昼寝しましょ、などと思っていたのですが、叔母さんまさかの大号泣。ああ、友だちっていいな。家族っていいな。頑張るって素敵だな。誰よりもしんちゃんを楽しんだのでありました。写真は長男が赤ちゃんだった時。ガラケーで撮った写メだから画像が粗い。そしてさすがに私が若い。

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2021.8.23 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website