モチベーション│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#191

モチベーション

2022-03-28 10:57:00

 いったいどんな効果があったのか、そして何故このタイミングなのか、全てがうやむやではありますが、まん防が開けました。長い冬を過ごした飲食店の方々にとっては朗報ですね。旅行会社にも続々と予約が入っているようで、たくさん人々の心と懐に潤いが舞い戻ると良いなと思います。私はといえば、この2年間ですっかり生活リズムが変わったために、これといって心が浮き立つことはありません。家で関口知宏さんの鉄道の旅の再放送を見る、何度も見ているけど見る、そんな日々です。あの番組を見るとすごく旅に行きたくなるのですよねえ。2年前の夏、コロナ禍の真っ最中ではありましたがパスポートの有効期限が切れたので、新しいものを申請しました。結婚して姓が変わるから、とひたすら5年有効のものを申請していたのですが、さすがにもうないなってことで潔く10年有効に切り替えた私。これまで紺色だった表紙は朱色に変わり、中のページには葛飾北斎の絵が印刷されています。なんて美しいのでしょう。しかも日本のパスポートは美しいだけではなく、今年も『世界最強』と評されました。ビザなしで行ける国がシンガポールと並んで192か国と最も多いのです。そのことについて調べていると、インドに渡航する際に事前のビザ取得が不要になったことを初めて知りました。その昔、茗荷谷にあったインドのビザセンターで申請をしたところ「1回目のビザがビジネスで、今回は観光ビザ?これ、ダメなの。切り替えるなら、その理由を大使宛に手紙で書いて」と窓口のインド人女性に言われ困惑。「大使に手紙?何語で?」と訊くと「英語」とぞんざいにコピー用紙を渡されました。『Dear Ambassador』という、大使への手紙としては絶対に間違っているであろう書き出しの信書をその場で書き手渡すと、彼女は「はい、オッケー」とその手紙を脇に投げ捨て、すぐにビザを発行してくれました。あれは本当に何だったんだろうなあ。何はともあれ、煩わしい申請がいらなくなったのは、またいつかインドに行きたいと考える者にとっては非常に助かります。しかしまあ、今はインドのみならず海外渡航はまだまだ難しいのが現状です。そのため、私のフランス語学習への意欲はだだ下がりで、継続の危機に陥っています。語学学習で最も大切なのはモチベーションであります。以前、スペイン語の勉強をしていた時は、ダビド・シルバと結婚したいという一心で頑張っていました。真面目にDELE資格を取得したりと数年続けていたのですが、初めて生シルバを見た2015年のUEFAチャンピオンズリーグ。マンチェスター・シティ対バルセロナの試合が行われたスタジアムは超満員でした。大歓声の中、ピッチを走るちびっこいスペイン人を眺めながら「こんなスターと結婚できるはずないじゃん」と、普通の人だったらすぐに気づきそうなことを、私は数年越しでわざわざ現地に足を運んで、やっと気がついたのです。それでも決して勉強が無駄ではなかったのは、ミュンヘン空港のカウンターで何故かスペイン語圏の人間に間違われ、ドイツ人のおばさんと日本人のおばさんがスペイン語で話すという摩訶不思議な体験を乗り切れたことが物語っています。そして今はフランス語です。レッスンに通い始めたきっかけは、2019年に父の仕事の手伝いでパリに行ったことでした。父とのパリはそれが三度目。もちろんコーディネーターの方もいますし、おおむね英語で事足りてはいたのですが、その時に、次回の渡航ではフランス語を話せるようになって父を驚かせたい、そしてもっと父の役に立ちたいと思いました。なんて親孝行な娘でしょう!(役に立ったらおこづかい貰えるかもという不純な動機がはらんでいるのは内緒)しかし、その半年後に父はくも膜下出血で倒れ、世界はあれよあれよとコロナ禍に見舞われ、父と再びパリを訪れることはかなり難しい状況になりました。じゃあ私は何のために勉強をしているんだろう?と自問自答しながら、毎週課される膨大な宿題をこなすだけの今。先日受けた中間テストでは『プールでの注意事項』という自由作文がありました。これはIl faut やdevoirといった「~しなくてはいけない」という文章構文や命令形を使って文章を書くというのが目的であります。始めのうちは「水着を着なくてはいけない」「化粧を落とさなくてはいけない」と順調に書いていたのですが、もう単語が全然で出てこなくて「猫を入れてはいけない」「犬を入れてはいけない」「うさぎを入れてはいけない」という動物シリーズを書いたあげく「車は駐車場に止めて」ともうプール関係ないじゃんということになってしまいました。テストが返却される時に、先生に怒られそうだなあ。どうモチベーションを上げるかが目下の悩みであります。写真は2015年のマンチェスターのスタジアムで失意に打ちひしがれている私です。

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2022.3.28 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website