都民割│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#198

都民割

2022-07-11 13:29:00

 今回の参院選も「この人には投票したくない」と消去法で選んでいったところ、変てこりんな候補者しか残らないということになりました。それでも税金を納めている以上、国から与えられた権利は全て行使するというのが私のモットーなので、不本意ながらも「まだマシ」な候補者の名前を書いて、日本が「まだマシ」な未来になるよう投票用紙に鉛筆を滑らせました。この日は投票〆切の数時間前に会場に着いたのですが、随分と人がいたことに驚きました。投票所で並んだのは初めての経験。数日前に起きたあまりにもショッキングな事件の影響もあったようです。まずは安倍元総理のご逝去を悼み、 心からご冥福をお祈り申し上げます。政治家の暗殺という非現実的な事件と直面して、数日経った今も心がざわざわと落ち着きません。安倍さんが国のトップであった長い年月、日本で生きている以上、私たちは彼の下で生きていました。その間にどんな不信感を持とうと、疑問の声をあげようと、それでも私たちはトップの声を聞いて生きていました。そのトップが、あんな玩具のような武器で、1人の男の憎悪によって、一瞬にして命を奪われてしまった。それはまるで、その下で必死に生きてきた私たちの時間までもが否定されたかのようで、悔しくて悲しくて、胸が苦しいです。二度とこんな痛ましい事件が起きないように、私たちは投票という権利を使って国を変えていなかくてはいけないのですが、フタを開けたら、やはり変てこりんな人が当選していて、この国の未来が心配です。しかし先日、国に与えられた権利としてはとても有意義に使えたものがありました。それは東京都民割『もっと楽しもう!Tokyo Tokyo』であります。
 この都民割、百合子の思いつきで発令されたのかは存じませんが、見切り発車感がハンパなく、色んなところで混乱が生じていました。都民割と謳っていますが、基本的に平日の昼間にネットにかぶりつける暇な人しか得をしない制度になっています。運良く予約開始日がお休みだった「暇な人」である私は、狙っていたアパホテル浅草蔵前を都民割で予約することができました。何故アパホテルなのか。それは今回の都民割の制度が関係しています。2年前のGOTOトラベルではニューオータニに宿泊(第156回『エグゼクティブハウス禅』参照)。宿泊代金が35%割ということで高級ホテルでの休日を楽しむことができたのですが、今回の制度では一律5000円引き。つまり1泊10万円のホテルが割引になったところで9万5千円なのです。庶民には手が出ませんわな。ということでアパホテル。1泊7000円ほどなので実質2000円でホテルライフを楽しむことができます。しかもこのアパホテル浅草蔵前は、朝食はもちろんのこと、何と夕飯までついているんです。事前にメニューを見てみると、そのなかに唐揚げ定食があったのですが、それが『十両』から『横綱』まで4段階に分かれており、なんと『横綱』は唐揚げ15個とご飯800gとのこと。一緒に行く母とお互いに「挑戦してよ」と薦め合ったのですが、老人の母と中年の娘が完食できるはずもなく、他の定食をいただくことにしました。夕飯込みなだけでも驚きなのに、グラスビールまでついているのだから満足度が高すぎる。有名な女社長のにんまりした笑顔が頭をよぎります。夕飯後は母と川沿いを散歩したのですが、隅田川とスカイツリーのある夜の景色は、まるでパリのよう。「ほら!向こうにはエッフェル塔があってさ、これはアレクサンドル3世橋でさ!」と興奮気味に言う私に「私にはスカイツリーと吾妻橋にしか見えないけど…。あら、屋形船が来たわよ」と母。「ああ、バトー・ムーシュが見える」もう3年行っていないパリに思いを馳せながら、この辺りに暮らすのも楽しそうだな、などと考えます。お部屋はごくごく普通のツインルーム。普段シングルベッドで「夢とお前を抱いている」私からすると、ダブルベッドというだけでお金持ちになった気分です。そして何といっても大浴場。最上階にある大浴場には露天風呂まであり、スカイツリーが目の前で輝いていました。母と二人で「綺麗だねー」と夜空を眺めます。ただ事故防止のためでしょうか、頑丈な鉄格子がついているので高級な刑務所にいるみたいな気分にもなります。1つ問題といえば、エアコンの攻防戦。私はどんな熱帯夜でも就寝時にエアコンはつけないので、母が寝たのを見計らいエアコンを消したのですが、朝起きたら身体がどんより。気づけばエアコンが再びついているではないか。どうやら夜中に暑くて目覚めた母がつけたらしい。「もう二度と誰とも暮らせない身体になってしまった」としみじみしながら朝のウォーキングをしたのですが、普段歩いているゴミだらけの渋谷周辺とは違い、とても気持ちが良く、ますますこの辺りに暮らしたいと思った都民割でありました。

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2022.7.11 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website