クラッシュ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#216

クラッシュ

2023-04-10 11:11:00

 数日前、自転車で激しく転びました。心身共に、いまだそのショックを引きずっています。仕事にプライベートにと、ほぼ毎日乗っている自転車ですが、転んだのは小学生以来。今でもはっきりと覚えています。それは家から公文へ向かう時のことでした。これまで何度も通っている道だから、きっと目をつぶってでも行けるはず。幼き西山繭子は突然そんなトリッキーなことを思いつきました。そして数秒後、少女を乗せた『リボンの騎士』の自転車は道路脇のフェンスに激突。アスファルトに大の字になった私は、通りすがりのおばさんに「ちょっとあなた!大丈夫!?」と助け起こされたのであります。一歩間違えていれば、今、私はここにいませんでした。それ以来、しっかりと目を開けて運転していたのですが、事故というのは、どんなに自分が気をつけていても起こるものです。雨があがった隙に出かけたスーパーの帰り道、細い路地を走っていた私の目の前に、急に人影が現れました。彼は、その路地に面したお店から飛び出してきたところでした。あっ、と思いハンドルをきると、そこは運悪くマンホールの上。晴れた日であっても、マンホールとハンドホールの上は絶対に走らないと決めている私ですが、あまりに突然だったため避けることができませんでした。タイヤは見事につるりと横滑りし、そのまま車体ごとガシャン。一瞬の出来事だったので、自分がどんな態勢になっていたのか覚えていませんが、頭や顔を打つことがなかったのは不幸中の幸いでした。努力義務のヘルメットも着用していませんでしたし。そのまま地面に放り出された私、転んだのだから痛みがあるはずなのに、びっくりしてしばし呆然。自転車で転ぶというのは見た目のインパクトがかなり強いようで、路地にいた他の人たちもフリーズしていました。のっそり身体を起こし、じんじんする膝に目を向けると、ズボンが擦り切れて血が滲んでいます。ぶつかりそうになった彼が「だ、だいじょうぶですか!?」と声をかけてきました。いつもの私だったら「おめーが急に出てきたからだろうがっ!」と言いそうなものですが、驚きと恐怖でうまく頭が回らず、小さな声で「大丈夫です。ありがとうございます」と答えるのがやっとでした。そして、地面にちらばった長芋とりんごとジャイアントコーン(雨があがった隙に買いに行く必要性がまったくなかった)を買い物袋に戻し、よろよろと自転車をひいてその場を去りました。その日はせっかくの休日でしたが、それからは何をしても心ここにあらずだったので、早々に休みました。目に見える怪我は膝だけだったのですが、翌朝起きると実際はかなりダメージを受けていることに気づきました。身体中が痛い。まあ、あれだけ派手に地面に叩きつけられれば、それはそうか。九死に一生を得るという言葉からはほど遠い出来事ではありましたが、生身の人間というのは、いつ死んでもおかしくないのだなと改めて気づかされました。だからこそ楽しく生きなくては、ですね。
 その「楽しく」を早速行動に移そうと、事故の衝撃で曲がってしまったカゴを直してもらうため、自転車屋さんへと向かいました。なぜそれが楽しいのかと言えば、自転車屋のお兄さんがすこぶるナイスガイだから。以前、ペダルを漕ぐたびにカタンと音が鳴るということがあったのですが、お兄さんがチェックしてみると鳴らない、大丈夫かとそのまま持って帰るとまた鳴り出す、再びお兄さんがチェックすると鳴らない、ということがありました。「これはもうおばけの仕業としか考えられませんよね?」と恐れおののくおばさんに、お兄さんは笑顔で「チェーンの油だと思います」と普通に答えてくれました。自転車の空気も自分で入れれば無料ですが、私はいつもお兄さんに頼みます。「入れ過ぎて爆発したら怖いじゃないですか?」「あはは、大丈夫ですよ」ああ、その笑顔がたくさん見たい。「空気って週1ぐらいで入れた方が良いんですよね?」「月1で大丈夫っす」それでもブレーキの音がうるさいとか、困ったことがあればお兄さんはあっという間に問題を解決してくれます。今、私のまわりにいるなかで断トツ頼りになる男、それが自転車屋のお兄さんなのであります。この日もカゴを「取り替えなくても大丈夫ですよ」と、ちょいちょいと直してくれたお兄さん。せっかくなのでヘルメットも購入しようと思ったのですが、あいにく大人用は完売。「GW前には入荷できると思うんですけどね」申し訳なさそうなお兄さんに対して、自転車屋に来る口実が増えて嬉しい私。ヘルメットを手に入れるその日までは、さらに安全運転に気をつけたいと思います。写真は私が入っている自転車保険です。備えあれば憂いなし。

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2023.4.10 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website