いざ出雲へ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#219

いざ出雲へ

2023-05-22 12:28:00

 映画『パディントン』のウクライナ語の吹き替えで有名なゼレンスキーさんもやって来た広島サミットが閉幕。被爆地に核ボタンを持ってくるリーダーがいたりと、その様子を見ていると、みんなで『パディントン』ならびに『パディントン2』を観た方がよっぽど世界平和への近道なのではと思ってしまいましたが、ヒロシマという街が、改めて世界に発信されたのは素晴らしいことだったのではないでしょうか。私も前回のコラムで書いたように、先月、広島を訪れることが出来て良かったです。なんといっても片道6600円のJALスマイルキャンペーンのおかげ。ありがとう日本航空。使いまくるぜ日本航空。ということで、この欲張りな私が、そんなお得なキャンペーンを1回ぽっきりで終わらせるなんてことはもちろんなく、広島の次は、びゅんと出雲へひとっ飛びしたのでありました。
 今回は母を連れての親子旅。少し前にペーパードライバー講習を受けたことを書きましたが(第217回『ハンドルさばき』参照)、それはこの出雲旅行のためでした。時間が限られた日帰り旅行で行きたい場所を効率的にまわるには、やはり車であろうということで出発前にレンタカーを予約。母にはフルフェイスヘルメットを着用の上、後部座席に乗ってもらおうと思ったのですが、「死ぬ時は一緒」ということで助手席にライドオン。まずは足立美術館を目指します。ここはアメリカの専門誌が選ぶ日本庭園ランキングで20年連続1位という美術館。ひねくれ者の私は、専門誌と美術館の間に何か癒着があるのではと疑ってしまったのですが、実際に足を運んでみると、その美しさに心が震えました。これを一個人が作ったなんて、母と二人「金持ちはやることがハンパないね」と感心しながら館内を回ります。決してアクセスが良い場所ではないにも関わらず、外国人観光客がたくさんいたのには驚きました。その中にフランス人の団体さんがいたので、生きたフランス語を学ぶチャンスと思った私は、その輪に近づきヒヤリングの練習に励みました。そして「庭って言ってる」「綺麗って言ってる」と母に通訳。そりゃ綺麗な庭園に来てるんだから言うだろうよ、なのですが優しき母は「繭ちゃん、さすがだわ~」と褒めてくれます。ありがとう、母。その母は、器が大好きとあって館内にある魯山人館で目をきらきらさせていました。そして作品を眺めながら「これにはぶり大根かな」「これにはからし菜を少し」「これは大きすぎて難しいわ」と脳内クッキング。母の料理の上手さと盛り付けのセンスは、娘の私からしても素敵だなと思うのですが、その母に育てられた娘は、いつかのヤマザキパン祭りでゲットした皿を年間500回使っているという怪。いや、私も好きなんですよ、美しい器。でも一人暮らしを始めた時に「結婚するまで食器は揃えない」と決めてしまったものですから、ヤマザキパン祭り一択なのです。それから、あっという間に時が経ち、気づけばもう死ぬまで食器を買えない可能性が高くなってしまいました。母が私に関して唯一気に病んでいるところはそこなのですが、45歳以上で結婚できる可能性はなんと0.3%だそうで、この私がそこに食い込めるなんて到底無理な話で、母には申し訳ない限り。その罪滅ぼしではないですが、こうして少しでも楽しい時間を過ごしてもらえたらなと思うのです。足立美術館をあとにした私たちはお昼を食べるために松江城の近くへ。ここでは宍道湖でとれた立派なしじみを堪能しました。そして腹ごなしもほどほどに、再び車に乗り込み宍道湖沿いの国道431号をひた走ります。目指すはかの有名な聖地、出雲大社です。縁結びで有名ですが、50年前にここを訪れた母と友人は二人とも離婚しており、20年前に仕事で訪れた私もこの状態ですからねえ。それでもやはり御本殿へと向かう松の参道を歩けば、その言い知れぬ壮大かつ厳かな気の流れに、私の毒まみれの心も浄化されるというものです。しかし、この母娘はあまりにも不勉強でして、出雲大社の象徴ともいえるあの大しめ縄を見上げて「こんなに小さかったっけ?」と不満顔。「今は何でも材料費高騰だからね」「うん、キットカットもめちゃめちゃ小さくなったからね」そんなことを話しながら駐車場へ向かう私たちの目に入ったのは、大きな大きなしめ縄がある神楽殿でした。「さっきのはダミーだったんだね!」拝殿をダミー呼ばわりするこの母娘にご利益なんてあるはずもないのですが、二礼四拍手でお参りをします。母が元気でいられますように。そして、本当にこれは出来たらで良いんですけど、無理を承知でお願いしますけど、もし0.3%に食い込めたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。出雲大社のご利益やいかに。さて次は母と一緒にどこに行こう。

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2023.5.22 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website