香港
2024-05-27 17:06:00
前回のコラムで『ジャッキー・チェン映画祭』のことを書きましたが、その興奮冷めやらぬまま、びゅんっと香港に行ってきました。香港を訪れるのは2度目なのですが、前回は中国返還前の1996年という大昔のことで、しかもその時は父との旅行(編集者さんと姉も一緒)だったので、「香港」よりも「父」の記憶ばかりが残っています。したがって気持ちの上では初めての香港旅行。約5時間のフライトは、沢木耕太郎さんの『深夜特急1』を読んでいたらあっという間でありました。この10年間、ヨーロッパとアメリカ本土への旅行が多かったので、このフライト時間の短さは、今後私をアジア旅行へと誘いそうな予感。空港から一歩出ると、もわっとしたなまぬるい空気が身体を包みこみ、異国に来たという感じに気分が高揚します。渡航前から5月の香港は雨季であると承知していましたが、亜熱帯気候の湿度は想像以上です。おかげで滞在中は、乾燥肌の私が常にテカテカの艶肌でありました。空港からホテルへはバスで向かいます。一人旅において、空港から市内への移動は大切な第一関門。ここで事がうまく運ぶと「良い旅になりそう」となるのです。バス乗り場で待っていたお姉さんに「上環(ションワン)?」と行き先を尋ねます。頷くお姉さん。そしてやって来たバスに乗り込みます。運転手さんにも「上環?」と私。乗り物はね、しつこいくらい確認した方が良いんです。そして、あらかじめ日本でアプリを入れておいた香港版の交通系ICカード『八達通』をどきどきしながら、端末にかざすと問題なく反応!わーい!些細なことに喜びを感じるのが旅の醍醐味でもあります。今回の旅での支払いは8割がこの八達通。香港旅行には必須です。乗り込んだバスは一路市内へ。耳に突っ込んだイヤフォンから流れる『ポリス・ストーリー』の主題歌と、椅子から転げ落ちそうになるほどの荒い運転は、このバスにジャッキーが傘でぶら下がっているのでは!という心躍る空想を呼び起こします。もうこの時点で「香港楽しい!」と思う単純な私です。そして無事にホテルに到着。渡航前『深夜特急』でも有名な重慶大厦(チョンキンマンション)に泊まろうかと宿を検索していたのですが、さすがにそこまで自分を追い込む必要はないなと上環にあるいたって普通の外資系ホテルを予約しました。このまわりは乾物問屋街のようで、店先にはツバメの巣やフカヒレ、干しシイタケなどが並んでいます。どの店も私から見ると同じものを売っていて、そしてどこの店の主人も四六時中暇そうにしており、どのように商売が成り立っているのか謎でした。一人旅の良いことの1つに「よく見える」があります。誰かといたら見落としていたであろうことが、一人だとよく見える。そして考える。今回、香港に来るにあたって歴史や政治の本をいくつか読みました。この独特の文化が生まれた歴史的背景、3年8ヵ月もの間この地が日本であったこと、そして1997年に中国に返還され一国二制度をうたうものの年々と脅かされている自由。霧雨がけむる中環を歩きながら考えます。天高くそびえる高層ビルのふもとは見渡せばどこもかしこも銀行ばかりで、こんなに必要なのだろかと思うほど。世界有数の金融センターでもある香港。ここではたくさんのお金が動いています。もちろん生きていく上にはお金が必要で、私もこうして香港に来られたのは仕事をしてお金を貯めたからであって、でもお金をもつことばかりが幸せなのかと言われれば…。グゥーーー。はっ!ちょうど良いところに目の前に麥奀雲吞麵世家が!人間、おなかが減っていると健やかな思考になりませんからね。ビジネスマンでごった返す昼時の店にずんずんと入り、「唔該、要呢個(ンゴーイ、イウニーゴ)」そう言って指をさしたのはワンタンメンと青菜。ああ、絶品。幸せ。この組み合わせ、滞在中に3回食べました。ちなみに基本的に英語は通じません。毎朝通ったホテルの近くの粥屋でも私は日本語、おばちゃんはひたすら広東語でやり取りをしていました。まあ込み入った話をするわけでもないので問題ないんですよね。毎朝通いましたが、おばちゃんは私に対して最後までスーパー塩対応でむしろ潔さを感じました。中国語の語気が、私の耳には強く聞こえることもありますが「香港の人って親切で優しいわ」といった印象はゼロです。皆さん、どちらかといえば不愛想。そうかといって不親切なわけでもなく、ただただ淡々としているだけなんですよね。最初は怖かったのですが、すぐに慣れてしまいました。そうしてワンタンメンを食べ終わったあとはトラムに乗って、人気のマンゴープリンのお店へ…って、ロンドン旅行の際のコラム同様、またしても何も書けていないまま文字数が!香港紀行、次回も続きます。写真は『ポリス・ストーリー』のロケ地、永安百貨です。
2024.5.27 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website