盆栽│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#260

盆栽

2025-02-09 21:09:00

 運転免許証の更新に行ってきました。運転免許証は本人確認の目的としての使用頻度も高く、人目にさらす機会が多いものです。しかも5年も使うのですから、せっかくであれば美しくありたい。ですので前回は、映画のロケ終わりで警察署へダッシュ。完璧なヘアメイクで手続きをいたしました。おかげでこの5年間は「本人確認証を」と言われれば、意気揚々とドヤ顔で見せることができたのです。しかし今回、果たしてそれは最善なのだろうかと考えました。というのも、ここ数年は仕事以外で化粧をすることがほとんどなくなりました。よって、その『完璧な私』を見せる時の私自身がまったくもって完璧ではない。「どちらさまですか?」ほどではないにしろ、軽く二度見されてしまうレベルです。ということは、あまりキマりすぎているのも良くないのではと、ほどほどのメイクで新宿免許センターへ向かいました。諸々の手続きを終えて、ビデオ講習では交通事故で高校生の息子をなくしたお父さんの話に涙。よりいっそうの安全運転を心に誓う私です。そして最後に新しい免許証が交付されるわけですが、番号を呼ばれて前に出るのは何だか刑務所の卒業式のようで厳かな気持ちになります。背筋をぴんと伸ばし両手で受け取った新しい免許証、さあどんなぐあいかと見てみると、そこには『不幸ではないけれど、決して幸せでもなさそうな47歳の女性』がいました。つまり『私』ということですね。いやー、やっぱり完璧なメイクの方が良かったわー。これ5年間も使いたくないわー。しかし後悔先に立たず。2030年までは、等身大の『私』とお付き合いしていこうと思います。
 そんな等身大さんは、先日ドラマ『相棒』に出演いたしました。8年ぶり2度目の『相棒』です。今回は役柄が盆栽教室の先生ということで、クランクイン前には盆栽教室の体験レッスンを受けてきました。盆栽のあれやこれやをやっているシーンというのはあまりなかったのですが、できる準備は1つでも多くやっておこうと思いました。レッスンを申し込んだのは日本橋三越本店にある清香園さんのお教室でした。この時はまだ知る由もありませんでしたが、こちらの清香園さんには実際の撮影でもお世話になりました。日本橋三越本店の屋上に出るのは初めてのことで、これほど立派な日本庭園が広がっているとは驚きでした。教室はその一角にあります。開店直後、水やりをしたばかりの盆栽が太陽の光に照らされてキラキラと輝いております。昔の漫画に出てくる近所の頑固おやじは、だいたい盆栽をやっていて、そこに野球ボールが飛んできて「コラー!」みたいな感じでしたが、今はどうなのですかね。棚にいくつも並んだ大小様々な盆栽たち。そのうちの1つに近づいて値札を見てみると「は!はっぴゃくまん!」途端に身体がこわばります。ここでいきなり立ちくらみを起こして、がらがらがっしゃんなどとなったら私の人生が終わってしまう。気をつけなければ。慎重にそろりそろりと忍び足で歩きながら、泥棒よろしく値札を見て回る私でありました。私のような愚鈍な人間は、値段が高ければひとまずすごいものであろうと認識しますので、その価値がわからなくとも「ほほう」と頷いてしまうものです。そうこうしているうちにレッスン開始の時間に。どうぞよろしくお願いいたします。まずは盆栽とはなんぞやというお話しから。盆栽というのは自然の風景を表現しており、ミニチュアになった自分が大自然のなかにいるかのように感じることができるもの。そのためにも、やや見上げるように眺めます。そう言われて実際そのように鑑賞してみると、なんとまあ!瞬時に目の前に広がる大自然。思わず「本当だもん!トトロいたんだもん!」と叫んでしまいそうなほどでした。この日は黒松とヒナ草を使ってミニ盆栽を作ります。鉢穴に網を固定して根留めの針金をギュッギュッ。失敗したくないので、ほとんど先生にやっていただきました。そして土を入れてからは苗の準備で、黒松の古葉を処理します。新芽を切らないようにしなくてはいけないのですが、この判別がやけに難しい。「これは古葉ですよね?」「新芽です」「これは古葉ですか?」「それも新芽です」「これは新芽じゃないですよね?」「新芽です」以前見たNHKスペシャル『驚異の庭園』、あれに出ていた足立美術館の庭師にぶっ飛ばされるレベルです。いやあ、盆栽は奥が深いですなあ。こんな私でしたが、優しい先生の助けのもと素敵な作品をつくることができました。お手入れのやり方も丁寧に教えていただき、今も毎朝きちんと水をやっています。考えてみたら植物の世話をするなど、小学生のあさがお以来ではないでしょうか。育てるうちに愛着がわいてきて、今では自然に話しかけてしまうほど。「綺麗に育って、はっぴゃくまんになるんだよー」

image2

2025.2.9 配信

最近のコラム

西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website