エッセイとは│西山繭子の「女子力って何ですか?」

西山繭子の「女子力って何ですか?」

Writer

西山繭子

#266

エッセイとは

2025-05-12 12:39:00

 山手線内回りに乗ると大崎止まりの列車に遭遇することが多々あります。そのたびにインバウンドの客を車掌ばりに誘導する私。「この電車のラストストップです」「では、どうすれば?」「オポサイトにカムする電車に乗るのです」「おお、ご親切にありがとう」「マイプレジャー」「ところで京都から奈良まではどうやって行くのが良いですか?」「・・・そこまではアイドンノウ」もちろん私が声をかけなくても、しばらくすれば駅員さんが見回りに来るのですが、他の乗客が降りて何事かと不安気な様子の外国人を見ていると放っておけないというか、これまで受けた旅先での親切はこういう時に返さなくてはと思うのです。ペイ・フォワードというやつですね。アムステルダムでバスに乗っていた際、オランダ語で何やらアナウンスがあったと思ったら次の停留所で人がどんどんと降りていきました。ぽつんと取り残されるジャパニーズおばさん。するとそこにハンサムな青年がやってきて「エンジントラブルだって」と英語で教えてくれました。降りたあとも彼は私に行き先を尋ね「それなら××番バスで行ける」と時刻表まで調べてくれました。お礼に一緒にハーリング(オランダ名物ニシンの塩漬け)でもどうですか?と声をかけたかったのですが、彼も先を急いでいる様子だったので「ダンケ、ダンケ」と頭をさげるに留めました。あの時の彼もきっと旅先で誰かの親切に出逢っていることでしょう。また少し前には、タクシーに乗る外国人観光客のお手伝いをしました。新宿駅のタクシー乗り場まで案内し、どこまで行くのかと尋ねたら新大久保に行きたいのだと。「新大久保のどこ?」「にぎわっているところ」。私はその界隈はルビー・パレス(女性専用サウナ)ぐらいしか知らないので、ひとまず運転手さんには「新大久保のドン・キホーテまでお願いします」と伝えました。日本のタクシーだとぼったくり被害のようなことはあまりないと思うので安心ですが、私の場合、海外に行って一番緊張するのはタクシーの後部座席です。ガイドブックなどに「夜のひとり歩きは危険なのでタクシーを使いましょう」と書かれていたりしますが、私としては密室に2人きりでイニシアチブをすべて運転手に握られているタクシーの方がよほど恐ろしいです。仕方なく乗った場合でも、これまでイヤな目にあったことは数知れず。ソウル、上海、バンコク、マニラ。あら、すべてアジアだわ。なかでも一番ハードルが高いと感じたのはマニラでした。と、ここまで書いて胸にざわつきが。あれ?ひょっとして。テケテケテケ。『西山繭子 女子力 マニラ』と検索。やはりすでに書いていた!(第51回『あたしゃ神様だよ』参照)自分が何を書いたかなんてすべて覚えていないので、こうしてネットで検索できるのはweb連載の便利さでありますね。週刊誌等で長期連載をされている先生方はいったいどうされているのでしょう?こういう時に「ああ、父が生きていたらなあ」と思いますが、こういう時はそうそうないので、このまま安らかに眠っていて欲しいです。まあ同じことを書かないために一番間違いないのは、過去を振り返らないことでしょうか。
 しばらく読書といえば小説だったのですが、ここ最近はエッセイをよく読みます。この連載は今回で266回目。隔週ではありますが、それでも執筆につまることがあります。また、人様に読んでもらうに値するものが書けているのだろうかと不安になることも多々あります。ですので面白いエッセイとはなんぞやという勉強も兼ねて、時間があれば手にとっています。群ようこさん、さくらももこさん、北大路公子さん、佐野洋子さん、などなど。たくさんの男性作家のエッセイを読んだわけではありませんが、これまで読んだものはどうにも説教じみたものや自慢が見え隠れするものが多くて、どうしても慣れ親しんだ女性作家の作品ばかり手にとってしまいます。だって、わざわざ自分の時間を使って本を読んで「ケッ」となるのもね。あとは過度な自虐も良くないです。これは自分が過去に書いたものから感じるところ。ただそれは年齢的なこともあるのかなと。この連載を始めた当時は36歳で、まだ恋愛や結婚の可能性がチラついていたり、仕事のことで悩んだりと気持ちがゆらいでいました。ですが今は「あとは死ぬだけ」という気持ちで生きているので、自分を卑下することがほとんどなくなりましたし、良い意味で色々とどうでもいいんですよね。ですので、これからも楽しく。ひたすらご機嫌に。写真はその36歳の時。「ハワイに着いたよー」と母に送ったところ「みうらじゅんかと思った」と言われたものです。みうらじゅんさんのエッセイは面白くて大好きです。

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2025.5.12 配信

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西山繭子さんINFORMATION

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website