憑き物を落とす
2025-09-08 10:36:00
前回お知らせいたしました通り、『ベスト・キッド レジェンズ』ならびにジャッキー・チェンの舞台挨拶に行ってまいりました。生ジャッキーを見るのは今回が2度目なのですが、子どもの頃に憧れたスターを前にやはり大興奮。「ジャッキー!」と言いながら、ぶんぶんと手を振りました。舞台挨拶の最後にジャッキーが客席のみんなと一緒に写真を撮ってくれたのですが、その写真を「これ、私だよ!」と客席のはるか後方でダブルピースをする私にマルをつけて友人に送ったところ、友人が「すごい!これ、西山繭子とジャッキー・チェンと、ジャッキーちゃんのスリーショットになってる!」と返信がきました。友人が加えたマルの中を見ると、そこには満面の笑みのジャッキーちゃんがいました。ご存じ、ジャッキー・チェンのものまねタレントです。彼を見つけるあたり、さすが私の友だちという感じですが、実は私、16年前に俳優でもある彼と舞台で共演しているのです。時代劇ということもあり、当時はあまりジャッキーみを出していなかったので気づきませんでしたが、今はもうジャッキー・チェンにしか見えません。しかも本人が歳をとっただけに、昔のジャッキーに会える!みたいな感覚もあり稀有な存在。今度、彼がいる時にキサラに遊びに行こうと思います。
チェンとちゃんに元気をもらった私ですが、さらに心身を整えるため、先日『ルビー・パレス』に行ってきました。こちらは新大久保にある韓国式の女性専用サウナ。年に数回訪れてはアカスリをしてもらうのですが、肌がぴかぴかになるのはもちろんのこと、アジュンマ(韓国のおばちゃん)にミトンでごしごし身体をこすられると憑き物が落ちるような気がするのです。この日も、夏にたまった恨みつらみをキレイさっぱりさせようと猛暑のなかをてくてくと向かいました。受付でいつものように『天国コース』を頼むと、指名があるかを尋ねられます。指名とはアカスリをしてくれるアジュンマのことなのですが、ここでは1番先生、2番先生といったように番号に先生をつけて呼ぶのが習わしです。先生それぞれの個性はありますが、どのアジュンマもとても上手ですし、私は平等に仕事がまわる方が良いという考えなのでいつも指名はしません。どんな先生に出逢うかも楽しみですしね。アカスリ前にはサウナに入ったり浴槽に浸かって、垢がたくさん出るように肌を柔らかくしておきます。ここ数年、大人気のサウナでありますが、実のところ私はあまり得意ではありません。サウナは熱くて息苦しいし、水風呂なんて冷たくて入りたくもない。その先にある「整う」の境地に至れば考え方が変わるのかもしれませんが、もう我慢とかしたくない年頃なので。その点、ルビー・パレスには我慢いらずで入れる遠赤サウナとよもぎスチームサウナがあるので有難いことこの上ない。そうして準備をして待っていると、黒いブラジャーとパンツ姿のアジュンマが呼びにきてくれます。アカスリ経験のある人にはもはや普通のことなのですが、おばちゃんたちは必ずといっていいほど、この姿なのです。水着でもなく、赤でも青でもなく、黒のブラジャーとパンツなのです。瘦せ型の人は見かけたことがないので、なかなかの迫力ですよ。この日は10番先生が担当でした。「ハイ、ウツブセ~」このあとはもうひたすらなすがまま。さながらまな板の上の鯉であります。こちらは当然全裸なのですが、アジュンマの指示でころころと転がされながら、腕を伸ばされ、股を開かれ、すみずみまでごしごしとこすられていると、もう赤子に戻った気分です。「ココ、アカクナッテル。イタクナイ?」「痛くないです」「アカ、スゴイヨ。オフロハイッテル?」「入ってます」「スゴクヤセテル。ゴハンタベテル?」「食べてます」私のことをここまで心配してくれるのは、この世に母と10番先生だけ。ありがたや。前回は伝説の3番先生で(第257回『バイナラ2024年』参照)、アカスリ後のオイルマッサージはかなり強めでしたが、10番先生は絶妙な力加減。どんどんと身体がときほぐされていきます。そしてシャンプーにコラーゲンパックにミルク保湿ケアと、その名の通りの天国コース。たまにはこんな贅沢も良いものです。つるつるぴかぴかになって生まれたてのようになった帰り道、どうしてもソルロンタンが食べたくなり近くにある専門店へ。私が、テーブルの上に置いてある壺から出した巨大キムチにかぶりついていると、隣に座っていたアジュンマが私に韓国語で何やら指示出し。ああ、このハサミで切りなさいということか。先日、映画館で観た『大統領暗殺裁判』で韓国の恐ろしさに震え上がった私ですが、多くの人は親切です。しかし、このなみなみとしたソルロンタンを薄い韓国式スプーンで平らげるのは、なかなか難儀でありました。
2025.9.8 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website