
顔に郵便マークをもつ女
2026-03-23 02:00:00
東京でも桜が開花し、春本番といった様子の今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか?私は前回お伝えした体調不良からやっと回復し、健康の大切さをしみじみと感じております。図書館で『一流の人はなぜ風邪をひかないのか?』という本を借りて読み、己の三流っぷりを反省しつつ、これからはもっと自分を労ろうと思いました。とにかく無理はしない。予定を詰めこまない。原稿は早めに書く。うん、そうしよう。でもね、そんなことを言いながら、もうすでにこれを更新の前日に書いているあたり、三流から這い上がれないゆえんなのだなと。まあ、春ですからね。ちょっと呑気にもなっちゃいますよね。ただ、これまでの私であれば、春になり暖かくなることを手放しで喜んでいましたが、今年の私は少し違うのです。なぜなら暖かくなる、イコール、スキーシーズンが終わってしまうということだから。
この冬、私は50歳を目前にしてスキーに挑戦いたしました。どうしてスキーかと言うと、数年前に映画『ハウス・オブ・グッチ』を観た際、スキーに興じるグッチ一族を目にして「ひょんなことからヨーロッパの貴族に嫁に行くことになった場合、スキーができないとまずいな」と考えました。スノーボードは経験があるのでそこそこ滑れるのですが、やはり貴族ですから、そこはスキーです。サンモリッツあたりでスキーなのです。しかし、やりたいなあやりたいなあと考えている間に春になり、「来年こそは!」という日々が数年続きました。その間に、スキーレッスン付きの日帰りバスツアーやアクセスの良いGALA湯沢のスキー教室などを調べてはいたのですが、ずっと気になっていたのが渋谷区民スキースクールでした。毎年11月頃の区報に応募のお知らせが載っており、目にするたびに「どうしよう。行きたい。でも不安」と葛藤を繰り返していました。何しろこのスキースクールは日帰りなんて甘っちょろいものではなく、3泊4日のスキー合宿なのです。誰かと参加するならまだしも1人参加ですし、初めてのスキーというだけでも不安なのに、初対面の方々と相部屋で3泊4日を過ごすって、相当ハードルが高い。それでも今回は12年に一度の年女ということもあり、勇気をふりしぼって応募いたしました。ただ、私が主催者だったら、ヨーロッパの貴族に嫁に行くためにスキーを始めたいという1人参加の48歳のおばさんは間違いなくはじくので、応募の備考欄には「50歳を前に新しいことを始めたく応募いたしました」と書き記しました。そして、なかなかの倍率をかいくぐり見事40名のうちの1人に当選!晴れてスキースクールに参加することになったのです。極度の緊張に襲われた1日目の出発の夜から始まり、おっかなびっくり滑り出したスキーデビューの2日目、5級のバッジテストに合格して大喜びした3日目、そして仲良くなった同じく1人参加の子とフリー滑走をした最終日。今思い返しても、これほどまでに楽しい時間を過ごしたのはいつ以来だろうというほどに心が満たされた4日間でした。連日、お天気に恵まれたというのも非常に大きいと思います。山頂に立つと、そこには青く澄んだ大きな空と北アルプスの雄大な景色が広がっていました。その美しい眺望を目にしながら毎日ゲレンデを滑れたことは、この上ない幸せでした。スキー板が雪をザザっと鳴らす音も耳に心地良く、滑れば滑るほどに心がどんどん浄化されていく感じなのです。そんな風に滑れるようになったのも、渋谷区スキー連盟の伊藤会長はじめ素晴らしい指導員の皆様のおかげ。これまで渋谷区の良いところなんてハチペイぐらいしかないと思っていたのですが、これからは「渋谷区には渋谷区スキー連盟がある!」と胸をはって言えます。そして出発前、最も懸念していた相部屋ですが、これに関しては新たな自分を発見し、私自身も驚いています。私は1人で過ごすことが大好きです。旅行も映画も買い物も食事も全部1人。たまに人と一緒に過ごすのももちろん楽しいけれど、月に3度が限界。それ以外はずっと1人。とにかく1人でいたい。そんな私が、まさか最終日にバスが渋谷に着いて解散した瞬間に寂しくてたまらなくなるなんて。48年も付き合っているのに、まだまだ知らない自分がいるとは本当に驚きでした。その驚きはちょっとした自信にも繋がりました。私、ちゃんと人と過ごすことができるんだって。ということは、ヨーロッパの貴族にも嫁に行けるってことですな。写真は完全防備で滑る私です。気分は原田知世だったのですが、ヘルメットもゴーグルもきつめに装着していたため、おでこには横二本、鼻には縦一本の跡がくっきりとつき、すべてをはずすと顔面に郵便マークが刻まれていました。
2026.3.23 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website