
クリーニング
2026-05-11 11:26:00
少し前にテレビで「今、若者たちに狭小住宅が人気です」というニュースをやっていました。上がり続ける家賃と上がらぬ給料の結果、狭小住宅に住まざる得ないことを「人気」などと言ってしまうメディアの姿勢に怒りすら覚えました。その際に知ったのですが、今年の3月に国土交通省が最低居住面積水準を撤廃したとのこと。これは人間が健康で文化的な生活を送るための最低限の住居の広さを定めていたもので、単身の場合であれば25㎡以上。一方で、若者たちに「人気」という狭小ワンルームは何と10㎡。半分以下ではないですか。ちょっと私には暮らせない。そもそも若者ではないけれど。やはり最低居住面積の25㎡はないとね。そういえば私の部屋は何平米だったっけ?と賃貸契約書を手にとったところ、目に飛び込んできたのは『24.9㎡』という数字。た、足りていない!なんと!私はこの10年間、健康で文化的な生活を送れていなかったということなのか!おろおろしながら、私はメジャーを床にひいて10㎝×100㎝を計りました。そして細長い0.1㎡をじっと見つめます。私から健康と文化を奪っていた0.1㎡。これが足りていれば、私は風邪をひくこともなくギックリ腰にもならず、ものもらいが出来ることもなかったのかもしれない。これが足りていれば、趣味で描いた絵は二科展に入選し、ダイナミックに筆を走らせた書は大河ドラマのタイトルに使われ、詩吟を歌えば拍手喝采。そうこうしているうちにテレビ局から声がかかり、文化人として朝のワイドショーに出演し「本当に痛ましい事件ですね」と悲し気な顔であたりさわりないコメントをして多額の報酬を得ていたのかもしれない。この0.1㎡さえあれば。100m走るにおける0.01秒の差。そんな感じだろうか。私はしばらく呆然と床を眺めていました。ニトリのカーペットを敷いた床。そこには先日ジャイアントコーンを食べた際に落ちたチョコのあとが。いよいよどうしようもないな、私。しかしながら引っ越しという選択肢はないので、今後もここで暮らしていくことになるのでしょう。ちなみにこの部屋に来たことのある父が「娘の家は玄関を開けたらすぐベランダ」と楽しそうに話していたと、生前一緒に行っていた店の大将から聞いたのは最近のこと。私は笑顔で「やだー。そこまでじゃないですよー」と答えましたが、心のなかでは「あんにゃろうー」と拳を握りしめていました。
そんな玄関からベランダ直行の私の最近の関心事といえばクリーニング。衣替えのシーズンということもあり、どれを出してどれを見送るか目下思案中であります。昨今、クリーニング代もばかにならないですからね。ですので家で洗えるもの、例えばウール系ニットやユニクロのダウンといったものは中性洗剤を使って手洗いをします。面倒と思われそうですが、私はこの手洗いの作業がけっこう好きで、手のひらで優しく押し洗いする感覚も、すすぎで水が綺麗になっていく様子も、洋服がさっぱりした顔になるのも全部好き。それでもカシミアだけはクリーニングへ。手洗いをしたこともありますが、カシミアの風合いを維持するためにはやはりプロの手です。その他にもコートなどはどうしてもクリーニングに出すことになりますが着用頻度が少ないものはブラッシングをしてそのまま保管。天気の良い日に陰干しをします。以前、モンクレールのダウンをクリーニングに出して痛い目に遭っているので、そこはかなり慎重になりました。そして今回、初挑戦をしたのはコインランドリーのモンベル撥水コースという洗濯方法。私の年間着用回数100回越えのアウターはフラームダウン。10年以上前に社長が「現場で着られるように」と女優みんなにダウンを作ってくれました。腕にはフラームのロゴ、袖口にはそれぞれの名前が入っています。ノースフェイス社のものですこぶる暖かい。私はそれを現場ではなく日常使いでがしがし着ているわけですが、今年はコインランドリーで洗ってみることにしました。まずは洗濯表示をチェック。ここにタンブル乾燥不可の表示があるとこのコースで洗濯できないのですが、いかんせん10年以上前のしろものなので洗濯表示が違うわけですよ。ということで「うん!タンブル乾燥不可の表示なし!OK!」とおおらかな気持ちでコインランドリーのドラムに入れてスイッチオン。所要時間は約1時間です。大丈夫と思って入れてはみたものの、こんな大切な唯一無二のフラームダウンがずたぼろになって出てきたらどうしよう。腕にあるロゴが突然アミューズに変わっていたらどうしよう。そんな心配をしていた私ですが、1時間後に取り出したフラームダウンはふんわりぴかぴかになっていました。こんなにぴかぴかならば袖口の名前が白石聖に変わっているかも!と思いましたが、そこはフラーム最古参の西山繭子のままでした。フラームダウンよ、次の冬もどうぞよろしくね。
2026.5.11 配信
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website