小宮山雄飛×今村翔吾│JUST TALK〜ジャスト トーク〜

シコウヒン特別企画『JUST TALK 〜ジャスト トーク〜

Talk

小宮山雄飛、今村翔吾

#001

2022-12-09 12:10:00

シコウヒンTV + アンカーマン小宮山雄飛です。 年末もだいぶ押し迫っていますが、皆様、いかがお過ごしでしょうか? 今回お届けする「シコウヒンTV特別編」は、いつもとは違う対談記事形式です。 シコウヒンTVに以前出ていただいた、作家の今村翔吾さんが経営する大阪は箕面の書店に伺い、今村さんとお互いのお薦め書籍を紹介し合うという特別企画です。 どんな本が出てくるか、乞うご期待!

  • 今村・小宮山
  • 雄飛前回、シコウヒンTVに出演して頂いた時に、今村さんが大阪の箕面で経営されている『きのしたブックセンター』にお伺いしようという話になり、今日は来させてもらいました。ここは、前の経営者の方から引き継がれたんですよね。
  • 今村そうなんですよ、去年の秋に引き継いだんです。元々は貸し本業もしていて、歴史的には65年も続いている本屋なんですよ。いわゆる街の本屋なんですけど、こういう本屋で僕も本を買って育ったので、ちょうど引き継いで1年経つんですけど、街の人に『潰さないでくれて、ありがとうございます』と言われたりすると本当に引き継いで良かったと思います。
  • 雄飛電子書籍も便利なんですけど、本屋に行くと思わぬ本との出逢いがありますもんね。
  • 今村僕ら作家からしたら、本は編集者・絵師・デザイナーとの合作で、紙にこだわって作っていますから、紙の本を手に取ってもらうのは嬉しいですね。本の表紙のタイトルデザインで、金箔や銀箔を使って特殊印刷をする箔押しというのがあるのですが、それって出版社の『この本を売るぞ!』という勝負、意気込みでもあるんですよ。僕の『塞王の楯』(第166回直木賞受賞作)もそうなんですけど、そういう箔押しから出版社の賞を獲る気が感じられたりするんです。
  • 今村
  • 塞王の楯
  • 雄飛そこから出版社の本気や気合いを読み取れるんですね?
  • 今村そうなんです。出版業界では風格とも言うんですけど、僕ら作家は箔押しをしてもらう事で、一人前の作家になったような気がします。出版社に箔押しをやっても問題の無い作家だと思われるという事なんで。
  • 雄飛まさしく箔が付くという事ですね。
  • 小宮山
  • 今村はい。重版とかもですが、そのような事から出版社の覚悟が見えるんです。本気で殴り合う気やなと。そういう出版社の気合いは馬鹿に出来ないし、読者が本を選ぶ時の指針にもなりますから。
  • 雄飛いやぁ、本の話って興味深いですね。今日は、作家である今村さんとお互いに本を紹介し合いたいなと思っているんです。音楽と食というテーマを設けまして、まずは音楽からいきたいのですが、僕から紹介させて頂きますね。永野さんの『僕はロックなんか聴いてきた』です。
  • 僕はロックなんか聴いてきた 僕はロックなんか聴いてきた
  • 今村お笑いの永野さん?! 音楽のイメージが無かったです!
  • 雄飛永野君は結構な音楽好きなんですよ。僕の2個下なんですけど、世代的に90年代の洋楽を聴いているんですね。そして、この本を読むと当時、本当に洋楽を聴いていたんだなという聴き方をしているんです。例えば、僕ら世代の洋楽好きは、ベックとビョークを絶対好きと言わないといけなかったとかが書かれているんですけど、そこに凄く90年代の洋楽好きの感じが出ているんですよ。後、オアシスはM-1グランプリでいうと決勝に行く音楽だけど、一方ブラーは2回戦どまりの音楽だとか(笑)。つまりオアシスは意識して絶対的に当てにいっていて、一方ブラーの当時はひねくれているので、2回戦で落ちても審査員がわからなかっただけという感じで我が道をいくイメージだったというのを書いているんですよ。
  • 今村おもしろい! 今でいうランジャタイみたいな?!
  • 雄飛ブラー=ランジャタイ説!?
  • 今村
  • 今村(笑)。ちなみに今の若い子は洋楽は聴いたりするんですかね?
  • 雄飛今は全てサブスクで聴けるので、邦楽も洋楽も全て垣根が無くなっちゃいましたね。だから、僕らの時代みたいにUKロック好きみたいな感じの子はいないかもです。
  • 今村それも一長一短で、良いのか悪いのかわからないですね。電子書籍にも、そういう一面はあるかもです。音楽でいうとジャケ買いも無くなってきてますよね。まだ本は紙媒体が強いけど、音楽の方が先に大変な状況になっているのかも。
  • 雄飛だから、90年代というCDが一番売れていた黄金時代を楽しんでいた永野君ならではの本なんですよ。
  • 今村僕は少し下の世代なんで、2000年代に青春時代を過ごしたけど、まだ洋楽好きは多くいたし、高校の時に軽音楽部でグリーンデイをコピーしていましたね。そうそう、凄い想い出があって、僕が一番最初に出逢ったミュージシャンってスティービー・ワンダーなんですよ!
  • 雄飛何で?!
  • 今村父親と母親がスティービーが好きで、小学生の時に大阪城ホールのコンサートに行ったんですよ。そしたら、スタッフが来て、コンサートの演出で子供が必要と言われて、実際にステージに出てスティービーと絡んだんです(笑)。御礼にドラムスティックをもらいましたね!
  • 雄飛凄い! それは貴重過ぎますね! じゃあ、今村さんの音楽にまつわる本の紹介もお願いします。
  • 今村&本 蜂蜜と遠雷
  • 今村僕は恩田陸さんの『蜂蜜と遠雷』です。これはキングオブ音楽小説ですね。史上初の直木賞と本屋大賞のW受賞をしたんですけど、本来、直木賞と本屋大賞を獲る筋肉は違うように思えるので。このW受賞は凄すぎるんです。内容自体もクラシックが題材になっているんですが、文字だけしか読んでいないのに、音楽が聴こえてくるのが凄すぎて…。ここまで音楽を小説で表現できるんだなという小説の可能性を感じましたし、小説で音楽の垣根を超えていけると思いました。長編なんですけど一気に読めるし、読み終わった後にクラシックを聴きたくなるんです。比喩や暗喩もやらしくないように使われてるのも素敵ですね。それによってクラシック=ハイソで遠いと思っていたものを身近に感じさせてくれるんです。完璧な表現ですよ。その上、200万部売れていますから、バケモンです! 映画やミュージカルにもなりましたけど、これは必ず紙から読んで欲しいです。映画やミュージカルでは音楽が鳴ってますけど、紙では音楽が鳴ってないのに聴こえるわけですから! これを超える音楽小説は無いので、僕は絶対に音楽小説はやらないですね。これがズバ抜けて良すぎますから。まぁ、やるとしても三味線とか、これとは全然違うジャンルを題材にしますね!
  • 雄飛なるほど! では、食をテーマにした本の紹介にいきますか。僕は『すし技術教科書<江戸前>ずし編』です。
  • 小宮山&本 すし技術教科書<江戸前>ずし編
  • 今村何これ!? 気になります!
  • 雄飛これは全国すし組合連合会が監修したもので、すし職人さんの教科書なんですけど、とても分厚いんです。僕は食が大好きで、食の本は山ほど持っていますが、雑誌『東京ウォーカー』の編集長だった方が『これは雄飛さんが持っていて下さい!』と以前にもらったものなんです。値段は7000円という高い値段でもありまして。
  • 今村いや、でも、これはおもしろそう!
  • 雄飛すしの握り方、飾り方とか、巻き物や刺身まで全ての技術が書いてあるんです。まぁ、それを僕が知っていてどうする?!という話なんですけど(笑)。ツマについてだけでも12種類も書いてあって! 最後の最後には独立の心構えまで書いてありますから(笑)。昭和50年のかなり古い本なんですけどね。
  • 今村今も手に入るんですかね?
  • 雄飛初版は難しいんじゃないですかね。当時では画期的なカルフォルニアロールまで載っていて、それも日本にはまだ無かったから、ニューヨークの店のが載っていたりするんです。
  • 今村・小宮山
  • 今村今ちょっと読ませてもらってますけど、当時はサーモンのすしも新しかった時代なんですね。
  • 雄飛そうなんですよ、歴史が感じ取れるんです。実は定番に思えるいくらのすしも歴史が浅かったりとか、すしの歴史が紐解かれる本ですね。まぁ、教科書といっていますけど、ほぼ図鑑ですよ。この重たいのを東京から持ってきました! それに、よく考えたら当時の7000円ですから、かなりのお値段ですよね。
  • 今村今なら、もしかしたら倍とかになっているかもですよ! 1回これで勉強した事があるというすし職人さんに話を聴いてみたいですね。当時、中卒で読んでいたとしても、もう60歳過ぎのすし職人さんですから。では、僕の食がテーマの本なんですけど、僕にとっての食のバイブルを選びました。池波正太郎先生の『鬼平犯科帳』です。文壇で食と言えば池波先生ですから。食が出てくる本は小説やエッセイで池波先生はたくさん書かれていますけど、これは江戸の食の良さが表れているんです。読んでいて、一番食べたいと思って、実際に食べたのが軍鶏鍋ですね。それと天ぷらそばも出てくるんですけど、この時代では何と邪道な食べ物と言われているんですよ。『油が滲み出るのが美味しい!』と若者が言っていて、年配の人に『通じゃない!』と言われている。どの時代にも、そういう世代間の違いってあるんですよね。今の時代だとチーズハットグを年配の人が理解できないようなものですよ(笑)。
  • 今村&本 鬼平犯科帳
  • 雄飛最初は何でも邪道と言われるんですよね。
  • 今村昔、自分のおじいちゃんにコーラを初めて飲んだ時に驚いたやろなと思って、『何味だと最初は思った?』と聴いた事があるんです。そしたら『松脂』と言っていましたよ!
  • 雄飛(笑)。醤油と間違って使った人もいたと言いますもんね!
  • 今村だから、食は進化もしていきますし、退化もしていくんですよ。池波先生はエッセイで全国の色々なお店に行かれているから、そういうのを読むのも楽しいですね。
  • 雄飛池波先生が愛したお店は、食好きは必ず行きますからね。
  • 今村本人が食好きやから、食の描写が読んでいると本当に腹減るんですよ。また、主人公が美味そうに食べるんです。思わず唾が出てくるような描写は凄いですよ。
  • 雄飛食を文章で表現するのは凄いですよね。
  • 今村池波先生が紹介されている店は、出来る限り行くようにしていますね。京都のおでんの店とかは、それなりのお値段はしますが(笑)。
  • 雄飛住まわれていた東京以外は、いわゆる高級な良い店に行かれていたのかも知れませんね。東京では庶民的な洋食屋に行かれていますから。お蕎麦屋も今でいうオールドスタイルな昔ながらの味の店に行かれていましたしね。
  • 小宮山
  • 今村確かに、そうかも知れないですね。でも、その京都のおでんの店も本当に美味しかったです。おでんが仕事をしっかりとしていましたから。いつか僕も池波先生みたいに食のエッセイを書いてみたいものです。雄飛さんは今、推されている店はありますか?
  • 雄飛一番推しているのはインネパ呑みというインドネパール料理の店で呑む事ですね。
  • 今村僕は基本呑めなくて、最近ようやく日本酒は呑めるようになってきたんですけど。流石にインネパには日本酒はないですよね?
  • 雄飛インネパの店にも日本酒ありますよ!
  • 今村えっ! インネパと日本酒は合うんですか?! 今度、インネパも含めて、江戸の下町の店に行きましょうよ! 新橋のガード下の店とかも行った事ないので行きたいんですよ。本当に電車の音が聴こえるんですか?!
  • 雄飛ガード下なので聴こえますよ(笑)。僕はよく新橋に行くので、じゃあ今度、新橋に行きましょう!
  • 今村・小宮山

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INFORMATION

今村翔吾
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て作家デビュー。2016年『狐の城』で九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞受賞し、2018年『童の神』(角川春樹事務所)で角川春樹小説賞受賞、2022年、『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞。他、受賞作多数。TBS 報道番組(JNN 系列)「N スタ」レギュラーコメ ンテーター出演中。
Twitter:@zusyu_kki


小宮山雄飛
東京・原宿生まれ。1996年ホフディランのVo&Keyとしてデビュー。音楽活動以外にもラジオ・テレビ・雑誌など活躍の場を広げ、今最も多くレギュラー・連載を持っているミュージシャンであり、カルチャー・流行面で同世代へ大きな影響力を持つ一人である。
食通としても知られ、“音楽界のグルメ番長”の異名を持つ。コラムの執筆やテレビ、ラジオ番組の出演などを多数こなし、19年には2冊目の酒場本「今日もひとり酒場」を上梓。渋谷区の観光大使 クリエイティブアンバサダーや、日本初のレモンライス専門店「Lemon Rice TOKYO」をオープンさせるなど、多彩な能力を発揮してさまざまな活躍を見せるマルチクリエイター。
公式サイト hoff.jp