国旗マニア その2
2014-08-18 10:05:00
この本には200の国と地域の旗が掲載されているのだが、その中に二組の同じ図柄と色の国旗が存在する。ひとつは上半分が赤、下半分が白のデザインのモナコ公国とインドネシアの旗。オリジナルはモナコのものなのだが、1945年にインドネシアが独立した時に同じデザインを採択。モナコは一応抗議はしたのだが、そこは人口3.6万人の公国と人口2億3800万人、人口世界第4位の大国の力の差が出てしまったのだろう。国旗はそのままで今に至っている。
もうひとつはルーマニアとチャドの左から青、黄、赤の国旗。チャドはフランスから独立した1959年にこの国旗を制定し、ルーマニア国旗には社会主義国らしい紋章がついていたのだが、1989年の政変で紋章が消え、チャドと同じデザインのものになってしまったのだ。
国旗とともに何とか共和国とか何とか連邦、何とか王国や公国といった国の名称も覚えるようにしているのだが、民主主義とか人権とかがいちばん危うい国に限って人民共和国とか民主主義共和国といった名前を付けたがる傾向にある。その最たる例が朝鮮民主主義人民共和国。民主的でも人民を大切にするでもない北朝鮮らしいアイロニーである。
国の名称でもうひとつ首を傾げたくなるのがスリランカの民主社会主義共和国。民主社会主義とはいったいどんなポリティカル・システムなのか、ぜひ知りたいと思う。
スリランカといえば、首都の名前をご存じですか?コロンボ?残念。不正解です。今の首都はスリジャヤワルダナプラコッテ。世界でいちばん長い首都名で、英語読みにするとSri Jayawardenapura Kotteとよけい難しくなる。
最近変わった首都をもうひとつ挙げるとするとミャンマーのそれが頭に浮かぶ。昔はヤンゴンだったのだが、将軍たちが貴重な国費をふんだんに使ってジャングルの真ん中に新しい首都を作ってしまった。その名はネーピードー。一般の国民がほとんど足を踏み入れることのない、新品のゴーストタウンのようなところである。
首都で変わった名前をもう少し挙げるとするとホンジュラスのテグシガルパ、マダガスカルのアンタナナリボ、トンガ王国のヌクアロファ、ブルキナファソのワガドゥグー当たりがいい感じなのではないだろうか。
さて、ぼくは今朝、この本に載っている200の国と地域の国旗、正式な国名、そして首都の名前を全て暗記することに成功した。気をよくしたぼくは行きつけのレストラン・バーへ行き、友人のウェイトレスにこのことを自慢した。「えっ?それってすごいじゃん!」と彼女は褒めてくれた。でもしばらくすると彼女はぼくの顔をマジマジと見つめ、「でも、それってさ、たいした使い道のない特技だよね」と言い放った。
う~ん。たしかに彼女の言う通りかもしれない。この数ヶ月、ぼくはテレビに海外の国が映る度に「この国の首都ってどこか知ってる?」とか「この旗はどこの国の国旗だと思う?」みたいなことを妻や娘に問いかけてきたのだが、最近ではうんざりした顔をされ、「うるさい」とか「しつこい」とよく言われる。まあ、無理もないですよね。たしかにうるさいです。国旗と国の首都にエキサイトする人間をぼくだって今まで見たことがないし、見つけたら避けるかもしれない。
もちろん、これと同じことを行きつけのバーとかカフェでやってもうるさがられるのは目に見えている。ぼくは昔からワインやうどんのウンチクとかをとくとくと語る輩が大嫌いだが、国旗や首都はワインやうどんよりももっとマイナーなジャンル。ウンチクを語る機会すらやってこない気がする。いや、たとえやってきたとしても、スリランカのスリジャヤワルダナプラコッテあたりで少し盛って終わり、ぐらいだと思う。
数年前にぼくの闘争心に火を付けたジャーナリストの友人でJ-WAVEの同僚は残念ながら去年、若くしてこの世を去ってしまった。だから彼のような好敵手と勝負するのは当分できない気がする。
そんなわけで、この特技はこれからずっと、自分の胸にしまっておく以外ないみたいである。ま、これはこれでクールなことかもしれない。よほどのことがないかぎり、この特技をひけらかしたりはしないのだ。そして、そのよほどのことが起こったときにだけ、サラッとさりげなく知っていることを言うのだ。
「モルドバ共和国の首都?たしかキシニョフだったと思うけど」とか「ベネズエラの正式名称?ベネズエラ・ボリバル共和国だよ」とか「バルト三国?上からエストニア、ラトビア、リトアニア。えっ?首都も知りたいの?上からタリン、リガ、ビリニュスだよ」みたいにやってやるのだ。これこそ、自己満足の境地である。
因みに、ぼくの記憶力だが、まったくよくなっていない。先日も『アレ★アレ★シネマトーク』でトム・クルーズとジョニー・デップの名前がどうしても出てこず、「ほら、あのニコール・キッドマンの元だんなと、あの、ほら、シザーハンズの主役のあいつって誰だっけ?」とやってしまった。
ロバートハリス(Robert Alan Harris, 1948年9月20日 - )は、横浜市生まれのDJ、作家。血液型AB型。上智大学卒業後、1971年に東南アジアを放浪。延べ16年間滞在。オーストラリア国営テレビ局で日本映画の英語字幕を担当した後、テレビ映画製作に参加、帰国後FMステーションJ-WAVEのナビゲーター(DJ)や、作家としても活躍中。 自らの体験談は、若い世代を中心に共感を呼んでいる。
2013年6月10日に新刊『WOMEN ぼくが愛した女性たちの話』が発売されました。
ハリスさんの軽妙でウィットに富んだ語り口から紡ぎ出される恋愛遍歴・恋愛論・家族愛が女性にまつわるアフォリズムとともに織り成された53編の物語。前作より6年振りの書き下ろしエッセイです! ぜひ書店にて!