ルシタニア号のふたり│ロバート・ハリスの「A DAY IN THE LIFE」

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ロバート・ハリスの「A DAY IN THE LIFE」

#006

ルシタニア号のふたり

2014-08-18 14:07:00

 数年前、『アフォリズム』という、歴史上の偉人、聖人、才人たちの言葉を集めた格言集を出版したのだが、この本の中に不思議なかたちで運命が絡み合った人物がふたりいることを、本を書いた後に知った。
 まだ本が印刷される前、ゲラのチェックをしていた出版社の編集者と、誤字脱字やコンテンツの名士名称などの誤りをチェックしてくれる校閲者が本の中に、名前は違うが両方ともアメリカ人で、同じ年に生まれ、死亡した年も同じで、その上、死んだ場所も同じ人物がふたりいる。これって何かの間違いなのではないか、と言ってきた。
 ぼくはこの本を書くにあたって、例えばアーネスト・ヘミングウェイやチャールズ・ブコウスキー、オスカー・ワイルドなど、自分が好きな作家やアーティストをまず選んで、彼らの名言を本の中のテーマに充てていくという手法と、本の中のテーマに合った名言を集め、その後、その名言の作家についてリサーチするという、ふたつの手法をとったのだが、問題となったふたりは後者のケースの人物だった。
 さっそくゲラを開き、ふたりについて記述したところをチェックしたのだが、驚くべき
偶然と、運命というものの不思議を目の当たりにした。
 このふたり、ひとりは『ガルシアへの手紙』というエッセイ集で有名な、エルバート・ハバードというアメリカの作家で画家で思想家。
 もうひとりは大ヒットした『ピーターパン』を初め、生涯700本以上の舞台劇を製作したチャールズ・フローマンというユダヤ系アメリカ人の舞台プロデューサー。
 ふたりとも生まれた年は1856年。亡くなったのは1915年。亡くなった場所はルシタニア号という豪華客船。第一次世界大戦時、このイギリスのオーシャン・ライナーはドイツ軍の潜水艦、U-ボートの魚雷攻撃を受けて撃沈されてしまったのだ。
 ぼくはさっそくこの船と、その最後の航海について調べたのだが、撃沈されたのはアイルランド沖15キロの海上。船は魚雷を受けてから僅か18分で沈んでしまった。1257人の乗客と702人の乗組員、併せて1959人のうち、半数以上の1198名が死亡。そのうち128名がアメリカ人。これがひとつの切っ掛けとなり、アメリカは後に戦争に参戦することになったと言われている。
 船には政治、財界の大物やアーティスト、文化人なども数多く乗っており、その中にエルバート・ハバードとチャールズ・フローマンはいた。ふたりが船の中で出会い、言葉を交わしたのかどうか、調べることは出来なかったが、もし出会っていたら、きっと良い友達になっていたのではないかと思う。それだけふたりの死に様には心を揺さぶれれるものがあるし、ふたりが残していった言葉も、実に感慨深い。
 海に飛び込むよりは、泳ぎの出来ない妻と一緒に死ぬことを選び、彼女を連れてルシタニア号の船室へと戻っていった作家のエルバート・ハバードはこんな言葉を残している:
「人に与える愛だけが、手に残る愛である」。
 一方、『ピーターパン』をプロデュースしたチャールズ・フローマンは救命ボートの席を人に譲り、こんな言葉を発して船とともに没したと言われている:「なんで死を恐れるんだい?死は人生でいちばん美しい冒険じゃないか?」
 

アフォリズム

アフォリズム

著:ロバート・ハリス
出版:サンクチュアリ出版

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内容紹介

オスカー・ワイルド、ヘミングウェイ、ウディ・アレン、コクトー、ボブ・ディラン、ニーチェ、カミュ、ブコウスキー、モハメド・アリ、パリス・ヒルトン…ロバート・ハリスが世界から集めた、人生をより深く生きるためのアフォリズム。


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Writer

ロバート・ハリス

ロバートハリス(Robert Alan Harris, 1948年9月20日 - )は、横浜市生まれのDJ、作家。血液型AB型。上智大学卒業後、1971年に東南アジアを放浪。延べ16年間滞在。オーストラリア国営テレビ局で日本映画の英語字幕を担当した後、テレビ映画製作に参加、帰国後FMステーションJ-WAVEのナビゲーター(DJ)や、作家としても活躍中。 自らの体験談は、若い世代を中心に共感を呼んでいる。


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ハリスさんの軽妙でウィットに富んだ語り口から紡ぎ出される恋愛遍歴・恋愛論・家族愛が女性にまつわるアフォリズムとともに織り成された53編の物語。前作より6年振りの書き下ろしエッセイです! ぜひ書店にて!





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