アン・ドゥ・トワ、ダーーー!│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#012

アン・ドゥ・トワ、ダーーー!

2014-10-20 10:06:00

 これが更新される月曜日の午後は毎週ヘトヘトである。曜日に関係のない仕事をしていて、いまだにTursdayのスペルにhが紛れ込んでしまうぐらい曜日には無頓着。そんな私が唯一、曜日で決まりごとがあるのが月曜日。マンデー、マンデー。スペルを覚える時はもちろんモンデー(Monday)で覚えたマンデーです。多くの社会人が憂鬱を感じている月曜日の午前、社会人になれない私がせっせと通っているのは、優雅にもバレエ教室。お!連載始まって初の女子力高めの話が出るか!?

 小学生の頃、『まりちゃん』シリーズというバレエをテーマにした少女漫画が大好きでした。私もまりちゃんのようにチュチュを着て踊りたい!ライバルにトウシューズをずたずたにされても健気に頑張りたい!いや、私だったらめっためたにやり返す!などと思いながら、母親に一度だけ「バレエを習いたい」とお願いしました。母は苦い顔をして「あなたはショートカットだからバレエはできない」とわけのわからないことを言いました。無論、髪の毛は伸ばせば済む話なのだけど、私はバレエが習えない理由が子どもながらにわかっていました。ドラマ『やまとなでしこ』流に言うならば、「貧乏なんて大嫌い!」であります。それから30年の時が経ち、お金持ちにはなっていないけど何とかバレエを始めることができました。教室に通い始めて二年半、飽きっぽい私にしたら、この継続期間はもう山本昌レベルですよ。何故こんなに続いているのかといえば、もちろん幼き頃の憧れはありますが、それ以外にも理由があります。まずは、家から近いこと。バレエスタジオは自宅から自転車で3分、ウルトラマンでも行けちゃう距離です。スタジオに向かう時はいつも家からレオタードを着て行きます。今の季節はその上にズボンとパーカーといった感じですが、冬場はレオタードの上にロングダウンという変態スタイル。これで事故になど遭ったら、救急隊員もドン引きでしょうから安全運転を心がけております。レッスンではいつもそんな感じなので、みんなで懇親会をやった時「西山さんがちゃんと洋服を着てるの初めて見た」と言われてしまいました。一度などレッスン後にあまりに汗だくでパーカーを羽織るのが嫌になり、レオタードにスキニーパンツだけはいて帰ろうとすると、レッスン仲間に「西山さん、仲本工事みたいだよ」と忠告されました。体操コーナーの時の工事スタイルですね。もちろんそのスタイルを貫いて帰りました。家から近いことはズボラな私にはとても大切。そして、長続きしているもう一つの理由として、先生が厳しいということがあります。大人の習い事の場合、和気藹々なゆるい空気が多いと思うのですが、私の先生は初回の体験レッスンからびしびしと教えてくれる方でした。「足をあげなさい!」とバシっと太腿を叩かれ、5番ポジションでは内腿の間にハンカチをはさまれ「落としちゃだめよ!」の声。内腿の筋肉がゆるんで、ハンカチをはらりと落とそうものなら「西山さん!お股が!お股がゆるい!」って……、先生、その言い方やめて。

 まだまだ初心者の私ですが、何事もチャレンジだ!ってことで、この夏はなんとパリでバレエのレッスンを受けてきました。無謀!マドモアゼル無謀!マレ地区にある可愛らしい中庭をぐるりと囲むように建つ石造りのスタジオ。私はどきどきしながら受付で教えてもらったdebutante(初心者)クラスの更衣室の扉を開けました。みんなの視線が一斉に私に集まります。なめられちゃいかん!と私はぐっと背筋をのばし、つかつかと中へ入りました。そしてベンチに腰掛けていた先生らしき人に「Bonjour」と挨拶。その姿にみんなは「このアジアンは何者かしら?」と探るような空気。道場やぶりがやって来た!みたいな感じ。それぞれがストレッチをする中、レオタードになった私は隅で坐禅を組んで時を待っていました。みんなの視線をちらちらと感じます。彼らの目には「アジアンの坐禅って本物っぺえ!」と映っていたに違いない。でも本当はみんなの身体つきやストレッチを見ていて、そのレベルの高さに「ここ初心者クラスだよね?初心者クラスって言ったよね?」と奥歯をガタガタ鳴らしていたのであります。そして、スタジオに移動してレッスンが始まりました。道場やぶりの空気を醸し出していたアジアンは、先生もずっこけのスーパー初心者。先生が私の手足に触れながら注意してくれるものの、フランス語だもんで何が何だかさっぱりの私は、必死の形相で「うぃ!うぃ!」と叫ぶばかり。それでも窓から差し込む陽光が美しいスタジオで、ピアノの生伴奏に合わせてバレエができたことは非常に良い思い出になりました。帰国後、事務所の社長に「プロフィールにパリにバレエ留学って書いてもいいですか?」と訊いたら、「うーん……駄目だよね」と返されたけれど。

幼い頃に憧れ、思い描いたプリマとはだいぶ形は違うけれど、それでも今バレエをできることはとても幸せであります。少しずつではあるけど、たぶん上達もしている。先月にはやっと先生からトウシューズの許可もおりたし!これぞ私が一番夢見ていたバレエの世界。まだバーから離れたら立つこともできないけれど、頑張って練習するぞー。目標はトウシューズで立ち吞みです。

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website