ハンドルは10時10分│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#014

ハンドルは10時10分

2014-11-10 09:59:00

 先日、久しぶりにレンタカーを借りてドライブをしました。好きな音楽を(もちろんニューキッズオンザブロック含む)かけて千葉の知人宅まで安全運転でのんびりと。運転はわりかし好きな方であります。運転というか、あの一人だけの空間が好き。今の若い子は車に興味がないなどと言いますが、やはり免許ぐらいは持っておいた方が良いと思います。身分証明書としてもスーパー便利ですからね。女子力という切り口から見ると、運転が下手っぽい方が可愛らしいのかもしれませんが、命がかかりますから運転に関しては上手いに越したことはありません。

 私が免許をとったのは20歳の時でした。我が家には車などありませんでしたから、車というのはとても遠い存在で、18歳になった時も免許をとる気などまったくありませんでした。それが一念発起したきっかけは、当時のバイト先だった文壇バーのオーナーの「いつも車で来ている自分が吞んだ時用に免許とって」の一言でした。ということで近所の教習所に通うことになったのですが、松竹梅のように値段が分かれていて一番早く取れる松を選びました。合宿でもないのに最短の2週間ほどで取れたので、免許ってお金で買うものなんだなーと思いました。それにしても普通免許ってもれなく原付免許がついてくるじゃないですか?あれってどうなんでしょう?私、今まで原付に乗ったことないですし、そもそも乗り方まったくわかりません。でも免許があるから乗れちゃうんですよね。怖いなあ。でもちょっと『ホットロード』だなあ。そんなこんなで晴れて免許を取得しまして、そうなるとやはり車が欲しくなるというのが人の欲ってもんで、免許をとった数日後には文壇バーのお客さんに中古車店を紹介してもらい、駐車場と契約して、お散歩マップになるほど丁寧な車庫証明書を書いてマイカーをゲット!ホンダ・アコード、4万円也!

 世の中には家が一軒買えるほどの車がたくさんありますが、4万円でも快適に走る車もあります。私が手に入れたアコードちゃんは、『ザ・お父さんの車』のような乗用車で、紺色の車体の屋根にはがっちりとスキーキャリアがついていました。私、スキーやらないけど、はずすのにお金がかかるというので、そのままにしていました。そしてバックミラーは何故か『いまどきのこども』という玖保キリコさんの漫画キャラクターのもの。小学生の時に好きだったので、それもそのままにしていました。中古車店でアコードちゃんを受け取り、運転席にライドオン!免許を取って初めての運転!それまではずっと助手席に教官が乗っていたのに、いきなり一人で環八を北上!地獄!というわけで、物凄い汗をかきながら運転したことを憶えています。しかも環八で車線変更をして右折というのが不可能に思えたので、左折に左折を繰り返して帰りました。そして契約したばかりの駐車場に100万回切り替えしてピットイン。安堵の息をついてサイドブレーキを引こうとした私、ここで真っ青になりました。何故ならサイドブレーキが引きっぱなしだったのです。走行中にメーターパネルにあるびっくりマークみたいなのが赤くなっていることには気づいたのですが「何のびっくりだろうなー」とはにゃ~。ブレーキの利きが悪くなってきて「まあ4万円だからなー」とほにゃ~。大事故に繋がらずに良かったです。

 今では縦列駐車も50万回ぐらいの切り替えしでOKな私ですが、最初の方は初心者マークを10枚つけても足りないぐらいの運転スキルでした。都内の狭いコインパーキングに入れる時など、その辺を歩いているおじさんに「すみません、運転できますか?私の車を駐車場に入れてもらいたいんですけど」と頼んだことが何度もあります。自分の車が傷つくのはまったく構わないのですが、人様の車を傷つけてはいけませんものね。あたしの思いやり、ハンパねえ。女子力、ハンパねえ。免許をとってからは、毎日運転していたので運転も少しずつ上達はしていたのですが、教習所でゲームセンターみたいなシュミレーション授業しかなかった首都高速だけは今でも怖くて苦手です。昔はカーナビなどなかったので、首都高速の分岐点がわからずにディズニーランドの帰り道に危うく二度レインボーブリッジを通りそうになりました。超不思議!

 当時は自分の部屋がなかったので、車が唯一自分だけの場所でした。カーオーディオはラジオとカセットだったので、大好きな曲(もちろんニューキッズオンザブロック)をカセットに編集して大声で歌いながら運転していました。楽しかったなあ。しかし、その生活も四年で終了。車って、買うのは簡単だけど、やはり維持費がかかるのですよね。車の維持費でいっぱいいっぱいで、遊びに行くお金がないという本末転倒ぶり。後ろ髪をひかれながらも、私の運転で傷だらけになったアコードちゃんに別れを告げました。それから10年ちょっと。また車を持つことはあるのかなー。今度はおじさんみたいな車じゃなくて、女子力が高そうなやつがいいなー。そんなことを考えながら、カーラジオで聴いていたカセットを流して思い出に浸る11月。やだ!もうすぐ今年が終わっちゃうじゃん!

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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