メールが向かない女
2015-09-21 16:05:00
先日、近所に住む男友だちにメールをした。「今、家?おしゃべりしようぜ」家にこもって原稿を書いていると、数日間で言葉を交わしたのが佐川急便のお兄さんだけという状況がよくある。だからたまにご近所の彼に、私のおしゃべりに付き合ってもらう。しかし、彼から返事はなかった。ん?なんで?モヤモヤした私は、その1週間後に「お宅にうちのタッパー置きっぱなしよね?」と他愛無いことで彼にメールをした。またしても返事がなかった。普段から返信が遅いにしても、十数年の付き合いの中でメールを無視されたことはなかった。何かあったのかと心配して彼のブログを覗いたらきちんと更新されていた。うん、死んではいない。となると、なぜ無視されているんだ?最後に会った時のことを思い出してみる。別段変わったことはなかった。いつも通りだった。私が物真似した『インタビューに答えるイチロー』を、彼は『テンションの低い斉藤清六』だと言った。いつも通りまったく生産性のない会話だった。しかしメールを無視されているということは、自分では気づかぬうちに彼を怒らせるようなことをしたのだろうか?私は極度の心配性&小心者なので、しばらく悶々と心が曇った時間を過ごした。そして意を決して「なんでメールを無視されているのか検討もつかない」と送ったところ、数分後に「ごめーん!日々飲み荒れてた!本当すまん!」という返事があった。さて、ここで問題です。このメールに対する女子力の高い返信というのは、どんなものでしょうか?【①もー!何かあったのかと思って心配したじゃん!②飲み荒れてたなんて、何かあった?大丈夫?③ずっとシカトされてたから死んだのかと思った。てか死ねばいいのに】この中で、絶対に正解じゃないと思われるメールを私は彼に送りました。うわー、女子力全然上がってない。
今では電話よりもメールの世の中。ぴぴぴと指先で打って送信。そして瞬時に既読、返信。そんな時代の中、私はいまだに手紙を書くのが大好きです。ドラえもんの道具に『もはん手紙ペン』というのがあります。名前の通り、このペンを使うと感動的な手紙を書けるというもの。しずかちゃんは、のび太くんの手紙に感動して涙を流しますが、実際に会って話すと「何だか、のびさん、手紙と違うわ」とテンションがた落ち。のび太くんは仕方なく、話すのを辞めて隣にいるしずかちゃんと手紙で会話をするというお話。私が書く手紙はこれに近いものがあって、彼氏にはよく「手紙の中の繭ちゃんはいったいどこにいるんだ?一度でいいから手紙の中の繭ちゃんに会いたい」と言われていました。どうやら手紙に関しては女子力が高いらしい。手紙だけで生きていたら今頃ジョージ・クルーニーと結婚していたかもしれない。そんな手紙が書けるなら、メールも一緒じゃないかと思われがちだけど、そうはうまくいかない。手紙と違って温度がないから、伝えるのが難しいんだよなー。捉え方ひとつで誤解が生じたりもする。以前、素敵だなと思った男性から会った翌日に「またお会いできたら嬉しいです」というメールをいただき、自分が好意を持っているものだから、その一文を社交辞令と捉えることができなかった私。何度も何度も読み返していくうちに、妄想は膨らみ「これはもうプロポーズと考えていいのではないか」という始末。しかしその後、彼には若くて可愛い彼女がいると知り、怒り心頭。友人に「彼女がいるくせに、あわよくば私と遊んでやろうと思ってたんだよね」と鼻息荒くぶちまけると「繭子、メール向いてなさすぎて心配」と言われてしまいました。ああ、メールって難しい!やはり私には手紙が向いているんだわ。写真は、私の手紙セットの一部です。右上にありますメキシコとケニアで購入したポストカードはなかなか出す相手が見つかりません。
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。
西山繭子さんの新刊
【バンクーバーの朝日】
~フジテレビ開局55周年記念映画 公式ノベライズ~
戦前のカナダ・バンクーバーで生き抜く
青年たちの葛藤・奮闘・友情を描いた最高傑作!
バンクーバーの朝日
西山繭子
マガジンハウス文庫
320p 620円(税別)
オフィシャルサイト→FLaMme official website