やっぱり賞品は現金がいいよね│中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

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中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

#007

やっぱり賞品は現金がいいよね

2016-01-28 22:06:00

 さて、2016年も早1ヶ月が過ぎようとしているが、正月気分なんて最初の3日で吹き飛んですっかり日常に舞い戻っている。小説を書き、人と会い、また小説を書いてサックスを吹いて新年会に行き、とグングン太ってしまいそうなスケジュールだが、1月の三連休は卓球の試合で埋まってしまった。
 中学校の3年間卓球部だったわたしは、6年前に東京に来てから、近所にたまたま卓球道場があったという縁でまた試合に参加している。地元のアットホームな試合なので、賞品が1位:Tシャツ、2位:トートバッグ、3位:靴下、という具合だ。“朝の9時に体育館へ集合して、夕方まで汗だくになって十数試合の激戦を戦い抜き、無数のアザができて、得た物が靴下”と思わないでもないが、趣味でやっているスポーツなんてこんなものだろうと、チームメイトのおばちゃんからもらったイヨカンを食べながらのんびりと考えていた。
 するとそのうち卓球関係の知人が増え、他の地区の試合にもヘルプで呼ばれるようになった。実は世の中には卓球用品店や地区のサークルが主催する試合が山ほどあって、卓球を夢中でやっている社会人や主婦、定年退職した人々が都内のそういった試合をくまなく調べて申し込んでいるのだ。中には、
「毎日旦那と練習して、週3回試合へ出場しているわよ」
 というご夫婦のダブルスも存在している。世の中にそんなにたくさん試合があるということも知らなかったし、真剣に試合に打ち込んでいる人たちの熱意にも驚いてしまう。そういった卓球三昧の人にとっては、試合自体が大変なゆーわくぶつなのだ。いわば「ラケットを振っていないと体調が悪くなる」という中毒状態におちいってしまう。
 そんな具合で各地の団体戦(たとえば3組のダブルスを1チームとしてエントリー)の試合に申し込みしていると、どうしても出られないメンバーが出てくる。そういった時にわたしに声がかかるのだが、たまたまそれが三連休に重なり、毎日試合に出ることになってしまった。
「今日の景品はなにかしらねえ、またリンゴとかもらえるのかしら」
 試合の合間、そう言ってチームの人々はチョコレート菓子を食べている(50代60代のおばちゃんたちは試合の合間、やたらとお菓子を配って食べる)。
「中島さんはなにが欲しい?」
 と突然聞かれた。わたしは子供の時から「誕生日はなにが欲しい?」と聞かれるとすかさず「現金」と答える正直な人間だったので、
「そうですねえ、やっぱり賞金がいいですねえ」
 と遠くを見つめた。
 すると、なんとその日入賞した景品に商品券が出た。チームに六千円分、ひとり千円分の商品券。今までめったになかったので、「なにを買おうか」とみんな大満足で会場をあとにした。
 そして三連休の最終日、3ミックスダブルス(男女ペアダブルス3組の団体戦)で優勝した際、ついに現金が賞金として渡された。チームに六千円、ひとりひとりに千円札が配られたのだ。嬉しさのあまり、我々は記念写真を撮った。

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 こうやってまっすぐに金を持って写真に写ってみると、正々堂々と戦って爽やかなはずが、どこか嫌らしい集団に見えてくるのがいい。やはり賞品は現金にかぎる。
 まあ、千円ごときではその日の打ち上げ代に即消えたけれども。しかも全然足りないっていう……。

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中島さなえさんのINFORMATION

Writer

中島さなえ

作家。1978年、兵庫県宝塚市に作家・中島らもの長女として生まれる。2009年エッセイ集『かんぼつちゃんのきおく』、2010年初小説『いちにち8ミリの。』でデビュー。他に小説『ルシッド・ドリーム』『放課後にシスター』、エッセイ集『お変わり、もういっぱい!』がある。サックスプレイヤーとしてバンド活動もしている。
研究施設から逃げ出したうさぎをめぐる連作短編集『わるいうさぎ』が双葉社より、「いじめ」をテーマにした短編を収めた競作アンソロジー『「いじめ」をめぐる物語』が朝日新聞出版より発売中。

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