あいきゃんとすぴーく英語│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#062

あいきゃんとすぴーく英語

2016-11-07 10:14:00

 夕暮れ前、ベランダで洗濯物を取り込んでいると階下の道を外国人旅行者が歩いているのが見えました。ライアン・ゴスリングから知性とセクシーさを奪ったような風貌(もはや何も残っていない)の彼は大きなスーツケースをがらがらと引きながら、地図を片手に何やら難しい顔をしていました。その時、彼のスーツケースの持ち手に引っ掛けられていた機内用おねんね枕が地面にぽろり。しかし、音を立てることなく落ちたおねんね枕に彼は気づくことなく歩き続けます。私はベランダから「枕、落としましたよ!」と日本語で彼に声をかけました。声に気づいた彼は、二階のベランダにいる女子力の高い超絶イイ女(私のこと)を見上げ首を傾げました。彼が英語圏の人かわからなかったけれど、とりあえず「ゆー、どろっぷど、ゆあ、ぴろ~」と流暢な英語を口に彼の後方を指差しました。枕を拾った彼は「Thank you」と言いつつ、地図を私に向けて道を教えて欲しいと言い出しました。私は「あいむ、ごーいん、だうん、なう。じゃすた、もめんと」ってな感じで彼の元へ。私は旅先でたくさんの人に親切にしてもらっているので、日本でせっせと恩返しするようにしています。地図と住所を見ながらふむふむ、近くだったので案内することにしました。映画『ジャンヌ・ダルク』のミラ・ジョボビッチばりの「Follow me!!!!」でゴー。オーストラリアから来たという彼に「時差がないから楽だね」と言うと「2時間あるよ」と言われ、「え!そうなの!?」と38歳にして初めて知る事実に白目。途中、長蛇の列ができている店の前で「ここは人気のラーメン屋さん」と教えると「食べたことある?」と彼。そこはいわゆる二郎系ラーメンを出すお店。全部食べられなかったら嫌なので未だ入店したことがありません。私が「食べたことない。私にはヘビー」と言うと、彼は少し怪訝な顔。「ヘビー」のニュアンスは日本語英語なのかしら?と思い、「グランデ」と言い直したのだけど、それはスペイン語。無事に彼を目的地である民泊先に送り届けてバイバイしましたが、帰り道、やっぱり英語が話せるようになりたいなあと思ったのでありました。さらりと英語で会話ができるなんて、女子力が高そうだし。

 人に「英語話せますか?」と訊かれた時、いつも「死なない程度に」と答えています。これまで何度も外国で一人旅をしましたが、今のところ無事生還。こんにちは、ありがとう、あれ食べたい、どこ行きたい、その辺りを言えてれば死なないだろっていう最低限のレベル。そう答えると「でも一人で旅行に行くんだから、やっぱり少しは話せるんでしょ?」となるのですけど、私の英語は本当に酷いです。成田空港で報道陣に囲まれる森田健作知事を見た外国人が私に「あれは誰だ?」と尋ねれば、私の答えは「とっぷ おぶ ちば」だし、バッキンガム宮殿を見ればタクシーの運転手さんに「わーお!いず でぃす ばっきんがむ きゅうでぃ~ん?」だし、メキシコの僻地でガイドに「フィフティーン トゥ ファイブ」と集合時間を言われ15と5が聞こえたから5時15分だなとその時間に行ったら(本当は4時45分だった)、バスはもう出発していて置いてけぼりになるし、もう散々なのです。ちなみに置いてけぼりになった僻地では、唯一そこにあったお土産屋のおじさんに、バスに置いてけぼりにされたという四コマ漫画を書いて説明。するとおじさんは、残っている一台のバスに何やら話をしてくれて、私はそのバスで無事に街に戻ることができました。ちなみにそのバスに乗っていたのは、地元小学校の社会科見学の子どもたち。いきなり乗ってきたアジア人に子どもたちは大はしゃぎ。みんなの名前を漢字で書いてあげたなあ。あの子たち、メキシコの凶悪麻薬組織の一員とかになってなければいいなあ。とまあ、これまで己の英語力の低さをいたるところで発揮しまくりなのであります。この春、NYに行った時もメトロポリタン美術館で知り合った男性と食事に行ったのですが(ビッチだな、私)、これがまあ盛り上がらなかったのなんの。スタンフォード大学を卒業し、現在はハーバード大学で先生をやっているスーパーエリートな彼。そんな人となんて、ただでさえ話が合わない上での英語。彼が研究している社会学なんて日本語で説明されたって、あたくしわからないですよ。最終的に「英語で話すの疲れた」と彼に死んだ魚の目で告げて帰りました。まったくもって、英語力もない!女子力もない!こうなったら、テレビもない!ラジオもない!車もそれほど走ってない!というわけなのです。

 しかし人間、死ぬまで勉強!ということで一応、毎日NHKのラジオ英会話はかかさず聞いていたりします。昨年の夏は、お葉書送ったら、載っちゃいましたし。お葉書送るなんて、そのあたりは女子力高いんじゃないの? いや、おばあちゃんみたいだな。

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』などがある。

 
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