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#063

パンパン

2016-11-21 14:58:00

　とある麗らかな昼時、すでに３回目となった『プリズン・ブレイク』を観ながらガパオライスに舌鼓を打っておりました。我ながら上出来、こりゃタイにも嫁に行けるわな～、コップンカ～と思いながら、３回目にも関わらずスコさん（主演ウェントワース・ミラーが演じるマイケル・スコフィールド）の動向にハラハラしていると、何やら顔面に異変。スコさんではなく、マユさんの顔面に異変。左頬に触れてみると、ぷくりと腫れている。何だろうと思いながらも、もぐもぐ食べ続けていると、そのうち咀嚼がうまくできないほどに左頬から耳の下までがパンパンに膨らんできました。え!?　激太り!?　ガパオライスってそんなにカロリー高いのか!?　いや、そんなはずはない！慌てて鏡を見ると、そこには風船のように顔が膨らんだおばさんが一人。あまり物事に動じない私ではありますが、この時ばかりはさすがに焦りました。中学生の時、バトントワリングの関東大会にバトンを忘れて行った時ぐらい焦りました。熱も痛みもないけれど、おたふく風邪かなと思い自転車を飛ばし、内科へGO。しかし激混みの内科で１時間ほど待っていると、左頬はいつの間にか元通り。先生に症状を話すと「耳鼻科に行ってください」とのこと。私は再び自転車に跨り、今度は耳鼻科へGO。内科の先生が「耳下腺（じかせん）の何かで、食事をすると腫れる」と言っていたので、せっかくなのでパンパンに腫らせた状態で耳鼻科に行こうと、途中でどら焼きを購入。もぐもぐしていると、再び顔はパンパンに！何だ、これ！ちょっと、面白い！こうしてドラえもんのような丸い顔で、耳鼻科に行くとおじいちゃん先生が、私の顔を見て「こりゃ酷いな！」と膝を叩きました。私が症状を話すと（一目瞭然だけど）、おじいちゃん先生は「石だな、石」と言って、看護師さんに何やら指示。「石」以外、何の説明もないまま、先生は注射を手にし、私は看護師さんに「これ、口の下で持って」とそら豆の形をした銀色のトレイを渡されました。「え！これ、何用ですか!?」どら焼きもガパオライスも吐きたくない私が訊くと「涎用」と言われ、一安心。いや、一安心じゃない！何の説明もないまま注射なんて！しかし、おじいちゃん先生は有無を言わさず私の口の中に注射器を突っ込みました。口内で何が起きているのかわからぬまま、天井を見ているとおじいちゃん先生が「あ！」と声をあげました。苦悶の表情のおじいちゃん先生を見て何か良からぬことが起きたのかと思ったのですが、おじいちゃん先生は、私の口から手を抜くと「つった。テニスやり過ぎたかな」と自分の手をもみもみ。もう！何だよ！そして「駄目だ、CTとってきて」とあっさり。知らなかったのですが、今は写真屋さんと同じような感じでCT撮影専門の病院ってのがあるのですね。というわけで、お次はCT撮影にGO。自転車を漕ぎながら、このあたりから私は不安になり始めていました。だっておじいちゃん先生ってば「耳下腺の石だったら大学病院で手術。顔の横をばっさり切るんだけど、顔面麻痺の後遺症が残るかもしれない。石じゃなくて腫瘍の可能性もある」なんて言うんだもん。女子力ないけどさ、顔に傷がつくのはやっぱり嫌だよね。CT撮影をしたフィルムを持って、私は再び耳鼻科に戻りました。この時、顔の腫れはもう引いていましたが、今度は自転車を漕ぎまくった太腿がパンパン。西山、秋のパンパン祭り。お皿はもらえません。おじいちゃん先生は、私のCTを唸りながら見ること数十分。「ないなー、ないなー。石がないなー」と歌うように言って、最後には「お手上げ！」と気持ちよいほどの白旗をあげました。悲しいことにこの日は金曜日、大学病院の紹介状を手にした私は、診察の予約ができる月曜日まで悶々とした週末を過ごすことになったのです。

　母に言うと心配しすぎてしまうので、ひとまず姉に電話。かくかくしかじか話すと、姉は、一瞬の沈黙のあと言いました。「まーたんが死んだら、ロロピアーナのストールちょうだい」くそ、電話しなきゃ良かった。まあ大丈夫だろうと思いながらも、以前友人がセミナーで死ぬまでにしたいことを100個書かされたという話を思い出した私は、おもむろにペンをとりました。「バク転をする」というアラフォーとは思えぬ願望から始まり、「野性のベンガル虎を見る」とか「ハーゲンダッツを全種類食べる」とかバカみたいなことを書き連ねたあげく、20個目ぐらいに「人の顔をグーで殴る」と書いた時に、自分の女子力のなさに絶望しました。ああ、最期まで女子力とは無縁の人生だったなあ。そして数日後、もうこの時はすでに症状は一切消えており、普通にドラマの撮影も行っていたのですが、せっかくCTを撮ったのだからという貧乏根性でてくてく大学病院へ。（ここは自転車じゃない）案の定、大学病院の先生は「石でも腫瘍でもないですね。ただの炎症だったんでしょう。あちこち行って大変でしたね」と笑顔で言いました。帰り道、空は綺麗に晴れ渡っていました。大丈夫と思いながらも、心のどこかで不安だった私、誰かと言葉を交わしたくて姉に電話をかけました。「良かったね」という姉に「うん、今からバット持って耳鼻科行ってくるわ」と言った私は、やはりどこまでも女子力がないのです。ご覧のように、CTにも女子力は写っておりません。