サバ
2016-12-07 22:20:00
あっという間に12月!私が一年で一番好きな大晦日までのカウントダウンが始まりました。毎年家でじっとしているだけで特別なことは何もしませんが、一年の悪行が帳消しになる日(そんなはずはない)ということで大晦日は大好きです。その日を迎えるまでの師走はとかくバタバタとしますが、先日マネージャーに時間をもらい京都へと行ってきました。女子力が高そうな京女に近づくべくはんなりな旅であれば良かったのですが、今回はフランスからのお客様と共にということで、はんなりよりはむしろ無能な自分にげんなりな疲労困憊の旅でありました。
旅の仲間は、私、フランス人姉妹(57歳&71歳)、パリ在住の日本人(63歳)という高齢女子旅。フランス語も話せないし、京都に詳しくもない私ですが、今回の旅は父から頼まれた任務でありました。姉妹の妹はパリのホテルでマネージャーをしており、そこは父の定宿で私も何度か宿泊したことがあるので、父から「お父さんは忙しいので、あなたが責任を持って接待するように」と仰せつかりました。ちなみに父は娘が365日暇だと思っています。まあ近いっちゃ、近いけど。ということで一路、京都へGO。乗車した新幹線ではまず椅子がくるりと回ることに「トレビア~ン!」。お天気が良かったので車窓からは富士山が綺麗に見えました。姉妹は「モンフジ!モンフジ!」とモンプチみたいな感じで富士山に興奮。ああ、幸先の良い旅だなあと思っていると「繭子はよく京都に行くの?」と訊かれました。「今まで5、6回かな。パリの方が多く行ってるよ」と答えると「あら。それなのにフランス語、全然覚えないわね」とぴしゃり。フランス人は厳しいどすえ。紅葉のシーズンが終わったとはいえ、京都は観光客で溢れ返っていました。父が用意してくれたハイヤーに乗り込み、早速観光に出かけた私たち。姉妹は窓の外に流れる古都を眺めながら、目に映る全てを珍しそうに見入っていました。そんな中「さっきからパシンコというお店がたくさんあるんだけど、あれは何?」と首を傾げる彼女たち。フランス語読みだとパシンコ、つまりPACHINKO。「スロットマシーンがあって、まあカジノみたいな感じかな」と言うと「日本人はよく働くイメージだけど、街中にこんなにカジノがあるなんて」と驚いていました。桂離宮、高台寺、金閣寺、銀閣寺、彼女たちは感嘆の声をあげながら写真をぱしゃぱしゃ。竜安寺では美しい石庭を前に「オ~、ゼン!トレ、ゼン!(わ~、禅!すごく禅!)」と言っていました。外国では『禅』が流行っていますが、果たして彼女たちは『禅』が何なのかわかっているのだろうか?と思いつつも、私もよくわかっていないので訊かれないように少し離れたところにいました。他にも色々と説明を求められることがあったのですが、そのたびに私が「ジュヌセパ(わからない)」と答えるので、彼女たちは私のこと、すんごいバカだと思ったはず。勉強せなあきまへんなあ。夕飯は、父が予約してくれた一見さんお断りのおでん屋さんへ。フランスでいうところのポトフでおま。もう、その店の美味しさたるや私には悶絶ものだったのですが、フランス人にはぴんとこなかったようで目の前にあるおでんの鍋を眺めながら即効でロールキャベツを注文していました。シメの松茸ごはんなんて「お腹いっぱいだからいい」って食べなかったですからね。その横でおかわりする私を見て彼女たちは「よく食べるわね」と目を丸くしていました。だって本当に美味しかったんだもの。お会計は父の方に請求書を送ってもらう手筈になっていたので支払いはしていませんが、お隣にいらっしゃった三名様の領収書をちらりと見ると、私の家の家賃よりも高かったです。恐るべし京都。その夜、宿に戻ってからフランス人の部屋に何か必要なものはないかと尋ねに行くと、姉の方が「大丈夫よ」と扉のところまで出て来たのですが、彼女は寝間着代わりに真っ赤なレースのスリップを着ていました。女子力高し!71歳でもまだまだ女!恐るべしフランス人。見習わねばあきまへんなあ。そして、そんな女子たちが買い物に胸を躍らせるのは万国共通。錦市場では食材を、ようじ屋では化粧品を、紙氏柿本では和紙を、エルメス祇園店では・・・誰も何も買ってない。見ただけ。そしてお土産物屋では、寿司柄などの靴下を物色。旦那さんにと選んでいた姉に「セ、ドワ、サンク(これ、指、五)」と五本指ソックスを見せると、彼女は「これを履くのは旦那には難しい」と却下。恐るべし旦那さん。そんなこんなで二泊三日の女子旅は、何とか無事に終わったわけですが、フランス語がほぼ話せない私は、この三日間にもう鯖を食べたくないぐらい「サバ(大丈夫とかOKの意)」とばかり繰り返していました。ちなみに鯖はフランス語で「マクロ」って言います。マクロ?まぐろ?いや、まぐろはフランス語で「トン」です。ああ、やっぱりフランス語はいつになっても話せる気がしない。
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website