クロマティ│西山繭子の「女子力って何ですか?」

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西山繭子の「女子力って何ですか?」

#083

クロマティ

2017-09-25 12:58:00

 新たな週の始まりである月曜日、バレエのレッスンで久しぶりに白いレオタードを着用しました。普段は黒を着ることが多いのですが、ここ最近心が荒んでいて腹の中が真っ黒なのでせめてレオタードだけでもと、オデットからオディール(白鳥の湖の登場人物です)へと変身。さあ今日も頑張りますかと気合を入れましたが、その時、鏡にうつった自分の姿にあからさまな異変を感じました。白レオタードをまとったおなかはポコリと出ていて、まったく白鳥らしさがありません。まるで『少年アシベ』のゴマちゃんのような身体。バッククロスになった背中からはむちむちと肉がはみ出ていて、ほぼハム。ハムの人、別所哲也さんに怒られそうなほどのハムっぷり。これは金曜日の昼から豪勢に4000円の天ぷら御膳を食べたからだろうか。それともその夜、家で秋刀魚を焼いたら美味しくて白米を三膳食べてしまったからだろうか。いや、それとも土曜日に仕事場で出た弁当が足りずに間髪入れずにドトールでジャーマンドックを食べたからか?もしくはその夜にパスタにマカロニサラダを合わせたあげく、23時過ぎに読んでいた本に感化されて衝動的にバター醤油ごはんを食べたから?うーん、もしかして日曜日にも仕事場で出た弁当が足りなくて肉まんとドーナツを買って食べて、仕事を終えた帰り道には渋谷で豚骨醤油ラーメンに餃子をつけたあげく『白めし無料!』のサービスにまんまとのったあげく、家に帰宅してから録画していた『世界ふれあい街歩き』『BS世界のドキュメンタリー』『世界で一番美しい瞬間』(どんだけ世界好きだよ!)を見ながらポテトチップスを一袋たいらげて、完食後に袋を見たら574kcalと書いてあって驚いたけど、続けて463kcalあるクッキーも一箱完食したからかしら?うーん、どれ?どれが原因かしら?って、わかりきってますよね。はい、みなさんご一緒に。せーので「全部だよ!!!」いやはや、この食べっぷり、ちょっと狂気すら感じます。結局、月曜日のバレエのレッスンでは身体が重すぎて息切れするし、トゥシューズを履いた足首は体重を支えられずに悲鳴をあげていました。帰宅後、おそるおそる体重計に乗ってみると、表示された数値に愕然。「ク、ク、ク、クロマティ!!!」ぼよよーん。まあ、でも駒田までいってなくて良かったよ・・・って安心してる場合じゃない!てか、体重を昔の巨人軍の背番号で表すあたり女子力ゼロ!

 この圧倒的な食欲にはもちろん原因があります。その一つはまず、バター醤油ごはんを誘発したという本です。それは柚木麻子さんの『BUTTER』。もう、この本に出てくる料理の描き方の素晴らしさたるや!私が作家デビューをした時、知り合いの編集者さんが「食べ物をうまく描ける作家さんは良い作家さんです。勉強してください」と料理の描写が素晴らしいという本を何冊もいただきました。柚木さんの『BUTTER』に出てくる料理は、どれもこれも「絶対に食べたい!」となります。この作品は、内容的にも心をかき乱されることばかりで本当に大切な一冊になりました。バター醤油ごはんのくだりでは、エシレバターという固有名詞が出てくるのですが、それがちょうど家にあったのでもう衝動をおさえられずに冷凍ごはんをチンしてしまいました。ちなみにこの本に登場する料理、ブフ・ブルギニョンは、いつか挑戦してみたいと思いつつもその工程の大変さにいまだ手をつけていない料理です。この料理を知ったのは、大好きな映画『ジュリー&ジュリア』。後ろ向きで恨み深くスーパーネガティブな私がポジティブになれる数少ない映画の一つです。『BUTTER』にしても『ジュリー&ジュリア』にしても美味しい食べ物って人生を美しく前向きにしてくれるものだなと改めて思います。しかし、今回の私のデブ化は明らかに前向きではない食事のせい。肉まんもマカロニサラダもポテトチップスもクッキーも、食べたあとに残ったのは罪悪感ばかり。この食べ方って世間一般で言うストレスってやつですよね。私は、こう見えても普段あまり人に対して腹をたてません。イヤなことをされても傷つけられても「へえ、こういう人がいるんだな」と胸にとどめる感じ。悲しくはなるけど怒りません。それがここ最近、仕事場で心底むかつく男に遭遇してしまったんですよね。真面目に働かない20代の彼は口を開けば言い訳ばかり。そしてやたらと「俺、コミ障なんで」と繰り返すのです。あまりにもしつこいので、私が「さっきからコミ障、コミ障って言ってるけどさ、それって失礼なこと言っても自分はコミ障だから大目に見てくださいってこと?」と厳しく言うと彼は黙り込んでしまいました。「世の中、そんなに甘くないから」と追い打ちをかける私に「まあまあ」となだめる周りの人々。この時は彼に対して腹をたてていたのですが、結局は彼なんかに腹をたてた自分の狭量にうんざりしてしまいました。そしてこんなことでドカ食いしてしまった私、女子力も人間力もまだまだですなあ。しかし「あたし、いま~、ダイエット中なんですよね~」ってスイーツを見ながら物欲しそうに上目遣いをするという女子力を発揮するチャンスでもあるのです!そう、ピンチはチャンス!エイエイ、オー!とりあえず数日で工藤公康までは戻したけど、もう少し痩せますね。

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西山繭子さんのINFORMATION

Writer

西山繭子

日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。

オフィシャルサイト→FLaMme official website