歌姫
2018-11-12 19:31:00
連載110回目であります。そういえば、これまでの人生の中で一度も110番をしたことがありません。しようかどうか迷ったことは1度だけ。それは隣人カップルの早朝痴話ゲンカです。朝方5時、酒に酔って帰宅したのであろうカップルが激しい痴話ゲンカを始めました。男が怒鳴り女が泣きながら反論するというパターンを飽きずに1時間以上も繰り返していたので、この後どうせ仲直りセックスで円満解決だろ、チッ、と思っていたのですが、怒鳴り声&泣き声はさらに大きくなる一方。そして途中でドスンッという音が聞こえた時に「あ、やばいかも」と思いました。しかし110番をするにも、こんなバカップル(今まで何度も痴話ゲンカは聞こえてきた)の仲裁ごときで警察を呼んでいいのだろうか?としばし逡巡。うーん、でも同じマンションで殺されちゃったりしたらイヤだしなー。うーん。でも警察を呼んだ逆恨みとかもイヤだしなー。と考えているうちにケンカはおさまりました。ああ、良かった、としばらくしてからゴミ出しのために家を出ると、マンションの踊り場には警察官数人とふてれくされた彼氏の姿が。びっくりして思わず「おはようございます!」と、模範のような朝の挨拶をしてしまいました。ぎろりと私を睨みつけてくる彼氏。え!110番したの、私じゃないんですけど!以前書いたゴミ出しがサイコパスな女といい、変な人ばかり暮らしているマンションです。
せめて私だけでもまともでいようと心がける毎日ですが、ここ最近、とてもじゃないがまともではいられない時間を過ごしました。それは世界の歌姫、マライア・キャリーのコンサートであります。彼女の来日公演があると知ったのは、今年4月に行ったブルーノ・マーズのコンサートでもらったチラシでした。(若い子はフライヤーって言うんですかね?)その時、一緒に行ったSちゃん、Mちゃんと「うわー、行きたいね」と盛り上がりました。この二人は昔のダンス友達。そのため私たちは90年代の音楽とクラブシーンにめっぽう敏感です。今はなき六本木のスクエアビル内にあったクラブR?hallは私たちの思い出の場所。ちなみにMちゃんは、スクエアビル近くのampm(こちらも今はなきコンビニエンスストアですね)でアイスを買おうとしたところ、小銭がなくてあたふたしていたら、後ろに並んでいたアンディ・フグがそっとお金を出して買ってくれたという素敵な逸話の持ち主。本物の強い男というのは、優しいのだね。若くして亡くなったことが悔やまれます。先日も私たちは、仕事終わりで集まろうぜってことで、渋谷のZESTに集合。店のチョイスからして90年代へのこだわりが強いです。「懐かしいね~」と言いながら、その昔、クラブで遊んでいた時に「写ルンです」で撮った粗い写真をみんなで眺めていました。その当時は物凄く高価だったカラコンや、シャギーの入った髪の毛や、チョコレート色の口紅が何ともノスタルジック。それにしても金曜日の夜に伝説的ダンサーCrazy Legsについて語る女三人は、世界広しといえども私たちだけだろうよ。
そして来たるマライアのコンサート、おばさんたちは意気揚々と武道館へと向かいました。やはりマライア、ファンの年齢層は高めです。今回が7回目の来日公演とのことでしたが、私は初参戦。マライアのCDは何枚か持っているけれど、ものすごくファンというわけでもなく、ここ10年間でそれらを聴く機会すらありませんでした。しかし、コンサートでは曲が始まるたびにイントロだけで懐かしさがこみ上げて、サビになるともう昔の記憶が走馬灯のように頭をかけめぐり、このまま死ぬんじゃないかと思いました。しかもまったく思い入れのない『HERO』でそれはピークに。中山美穂さんが歌っていたという事実も忘れ、号泣してしまいました。いやー、でもほとんどの曲がそんな風に心を揺さぶるのだから、改めてマライアはスーパースターなのだなあと思いました。もちろん声を含め、絶頂期と比べたらパフォーマンスは落ちています。コーラスに頼って歌ってんだか歌ってないんだかの時間も長いし、何しろ喉が温まるのが8曲目ぐらいだったというのはあるけれど、それでも4回の衣装替えに歩くのも困難な高いヒール、そしてダンサーをしたがえる様子は、やはり世界の歌姫なのであります。アンコールはもちろんあの曲で、だいぶ早めのクリスマス。ムチムチの身体をスーパーサイヤ人のようなレオタードにつめこんだマライアからは、パワフルな女子力を感じました。しかし、中学生の時には大人だと思っていたマライアとも気づけば同じ40代で、もはや仲間の域。私もブライアン・タナカ(マライアの今の恋人)のようなヒモ的メンズを連れて歩けるように頑張るぞー!
日本の女優、作家。東京都出身。
大学在学中の1997年、UHA味覚糖「おさつどきっ」のCMでデビュー。
テレビドラマを始め、女優として活動。
最近は小説やテレビドラマの脚本執筆など、活動の幅を広げている。
著書に『色鉛筆専門店』『しょーとほーぷ』『ワクちん』『バンクーバーの朝日』などがある。
オフィシャルサイト→FLaMme official website