モフモフへの限りない羨望│中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

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中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

#009

モフモフへの限りない羨望

2019-11-19 15:34:00

十年間飼っていた我が家のうさぎ、ムーンライト横山(♀)が逝って一年が過ぎた。全身が真っ黒で、どちらが頭でどちらがお尻かも一瞬では見分けがつかないライオンドワーフ(長毛種)だった。
ム―ライト横山は最初、兵庫県のペットショップに一万五千円くらいで売られているのを母が発見したのだが、その後ペットショップへ行く度に、一万五千円が一万二千円に、一万二千円が九千円にと、どんどん値下がりしていったのだそうだ。ついに三千円になった時、母がわたしに連絡をしてきた。「次に行った時は挽き肉になってしまう。ここはひとつ、さなえがかってやってくれ」と。
ペットショップに行ってみると、ケージの中にうずくまっている真っ黒な塊が。それが静岡出身・ムーンライト横山との出会いだった。レジでお支払いをすると、うさぎよりもケージの方が高かった。たしかに、挽き肉ギリギリだったかと思う。

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それ以来十年間、ムーンライト横山は限りなく写真うつりの悪いうさぎとして一緒に過ごしてきた。テレビでも写真が紹介されたし、わたしの小説のタイトルにもなった。うさぎの平均寿命が八年とのことなので、まあまあ長生きしてくれた。
逝った時、わたしは初めてペット葬儀屋を利用しようと電話をかけた。さっそく翌朝に引き取りにきてくれるというので待っていたら、頭をオールバックでがっちり固めた、黒いスーツに白い手袋をした男性が深々と頭を下げながらやってきた。男性は、「この度はご愁傷さまでございます。心よりお悔やみ申し上げます」と言い、真っ白なシルクの布に包まれたベッド(かご)を、「こちらにうさぎちゃんをおのせください」と差し出す。人間とさして変わらないセレモニー、ペット市場の発展ぶりに驚いた。そのうちペットの結婚式場でもできるのではないだろうか。

 それから一年が経ったわけだが、このところ動物へのゆーわくが激しい。なにしろSNSを開けば怒涛の犬猫テロ画像、YOUTUBEを開けばトップには「しゃべる猫・しおちゃん」の動画が(わたしが毎日しつこーく観ているからなのだが)。羨ましくてしかたがない。街中でも、家の中でも、動物へのゆーわくに絶えず駆られている。
 そろそろまた動物とのんびりライフを始めようか。犬?猫?うさぎ?
そういえば先日、フェレットを飼っている人に話を聞いたら、喜怒哀楽、感情が“無”なのだそうだ。二匹飼っているうちの一匹のフェレットが臨終でもがき苦しんでいる間、隣にいる相方フェレットは無関心で餌を食べていたという。“無”は嫌だな。一ミリでいいから感情があってほしいな。なんてことを考えつつ、近々わたしはなにかモフモフとした動物と暮らす気がする。おそらく、たぶん、きっと。

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中島さなえさんのINFORMATION

Writer

中島さなえ

作家。1978年、兵庫県宝塚市に作家・中島らもの長女として生まれる。2009年エッセイ集『かんぼつちゃんのきおく』、2010年初小説『いちにち8ミリの。』でデビュー。他に小説『ルシッド・ドリーム』『放課後にシスター』、エッセイ集『お変わり、もういっぱい!』がある。サックスプレイヤーとしてバンド活動もしている。
研究施設から逃げ出したうさぎをめぐる連作短編集『わるいうさぎ』が双葉社より、「いじめ」をテーマにした短編を収めた競作アンソロジー『「いじめ」をめぐる物語』が朝日新聞出版より発売中。

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