透けてるかぁ?│中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

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中島さなえの「四方八方ゆーわくぶつ」

#011

透けてるかぁ?

2020-02-12 11:00:00

 2020年になってすぐ、兵庫県の実家に住む母から一通のメールが送られてきた。タイトルは「透けてるかぁ?」。なにかと思い開いてみると、
「おや~?今朝のナランちゃん。透けてるかぁ?」
と書かれている。ナランちゃんというのは、実家で飼われているネザーランドドワーフ種のうさぎだ。添付されている画像を開いてみる。

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 たしかに透けている!ナランちゃんの頭の向こう側に、本来見えないはずのわら小屋の全体がうっすらと写ってしまっている。昔の心霊写真ブーム時代なら即座に「近々本人か身内に事故が起こります。すぐにお祓いを」と診断されてしまう写真だ。母いわく、長年使っているガラケーで撮影したところ、思いがけずこうなってしまったのだそうだ。メールには続きで、
「不吉だ。でも、頭部分が透けているから、きっと知恵が足りないのだということにしておこう」
そう綴られていた。正月早々こんな不思議画像を送りつけてきた母だが、実は前にも同じような画像を送ってきたことがある。

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 これは実家で飼われていたペロというヨークシャーテリア。こちらも同じガラケーで普通に撮影したらしい。スターウォーズに出てきてもおかしくないアメイジングな仕上がりになっている。
「そろそろガラケー替えたら?」と母に会う度に言っていたわたしは考えを改めた。美肌モードにナチュラルモード、老化フィルターに若返りフィルター、モザイクに猫耳にマット化、みんなが工夫を凝らして加工しているこのご時世に、なんの細工もせずこんな不思議写真が撮れてしまうとはなんともうらやましい。
とはいえ、よほど使い込んでボロボロにしないとこんなおかしなことにはならないだろう。なにしろ母は、ガラケーに次々と届くスパムメールも、「せっかく送っていただいたので、最後の一文までじっくりと読ませていただく」と言って、一通一通、瞳をこらして見つめているヘビーユーザーだ。
そんな母は最近、
「おはようでござる!ロボロフキーハムスターのミグが来たよ。生まれた場所がチェコ!外国人や!すごい!きっとプラハの生まれ。芸術家だなぁ~」
と、またもや画像を送ってきたのだが、焦点の合っていないぼやけたもので、よくよく目を凝らしてみるとようやくハムスターが回し車の中を走っているものだとわかる、まったく芸術性のない画像なのだった。うーん、わかりづらい。たまにはくっきりと美しく写った動物の姿が見たい。やっぱり、ガラケー替えたら?

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中島さなえさんのINFORMATION

Writer

中島さなえ

作家。1978年、兵庫県宝塚市に作家・中島らもの長女として生まれる。2009年エッセイ集『かんぼつちゃんのきおく』、2010年初小説『いちにち8ミリの。』でデビュー。他に小説『ルシッド・ドリーム』『放課後にシスター』、エッセイ集『お変わり、もういっぱい!』がある。サックスプレイヤーとしてバンド活動もしている。
研究施設から逃げ出したうさぎをめぐる連作短編集『わるいうさぎ』が双葉社より、「いじめ」をテーマにした短編を収めた競作アンソロジー『「いじめ」をめぐる物語』が朝日新聞出版より発売中。

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